雨のち いずれ晴れ

ホントは寂しがりやのシングルファザーが叫ぶ! 誰かに届け!誰かに響け!!

大人の恋の覚悟

先日、ある女性と討論になった。

お互いにお酒が入り溢れんばかりのエネルギーを抑止し、感情的になりそうな熱い気持ちを抑えながら。

 

 

彼女にはパートナーがいる。パートナーと言っても結婚しているわけではない。俗に言う『彼氏』というやつだ。

会話の流れから「僕と2人でお酒をのんだりして、嫉妬されないのか?」と冗談100%で発言したのがきっかけとなった。

 

 

 

彼女は僕の二つ下。42歳になる。僕と同じ独身貴族。立派な大人の女性だ。流行りのゆったりとしたシルエットの服装はファッションに無頓着になってきた僕を責めているような感覚にさせる。

 

 

彼女曰く「彼氏にいつ裏切られてもいいように完全には信用していない」とのこと。自己防衛の手段であり、傷つかないための心の準備なのだと言った。しかしながら結婚したいぐらい好きなのだそうだ。自分にはもったいないぐらい素敵な人とのこと。

要は、相手の心変わりも含めて、いつやってくるとも分からない『別れの時』におびえているのだろうと推測できる。

ちなみに今現在、彼氏に疑わしいことは一つも無いそうだ。

 

ここから僕との討論が始まった。

 

 

結婚したいぐらい好きな人を完全には信用していないとはどういうことか。僕には理解できなかった。

ここから先は僕が彼女に話した持論を書いていく。恋愛観は人それぞれで賛否があるのは承知している。

 

 

 

●別れへの不安

生きている限り『別れ』は避けられない。何人たりとも。その時期がいつ訪れるかだけの問題。

パートナーとしての契りを交わしている状態で相手が死を迎えるパターン。

もしくは心変わりや恋敵の出現によって契りを解消されるパターン。いずれかである。

彼女が心配しているのは明らかに後者である。

僕は思う。自分の好きな人が幸せになるのならそれでいいではないか。たとえ幸せを感じる対象が自分じゃなくても。だって、自分が好きな人には幸せでいてほしいから。

そう思える事こそが本物の『好き』もしくは『愛』なのではないのだろうか。

 

 

 

●疑うということ

相手を疑っている状態というのは、精神衛生上ともて苦痛である。心配が消えない。

もし万が一、浮気等も含めた恋敵の出現により別れが訪れるのであれば、相手から切り出されるまでの間は『疑いの気持ち』を抱いている分、不幸だと思う。いつそうなるとも分からないのに。

だったら『別れを切り出される瞬間』まで信じ切っていればいい。来るとも知らない瞬間に怯えて自己防衛して過ごしている間は時間の無駄である。

 

 

●本当に好きなのか?

自分が完全に信用できない人の事を『好き』と表現してもいいのだろうか。

共に過ごしている目に見えている『二人の時間』だけではなく、離れていて目視できない相手の時間さえも安心して受け入れられる。そんな人だからこそ『好き』なのではないのだろうか。

 

 

 

 

 

こんな話を長い時間を使って彼女と話した。

彼女からは「理屈は分かるが、あなたには感情が無い」と言われた。

結局のところ彼女は、相手を好きすぎるあまり『万が一』を恐れ、それが訪れた場合の対策として、自分の傷を少しでも浅くするため『完全には信用しない』というスタンスを取り続けるのだそうだ。

 

はっきりとお伝えしておくが、僕は彼女の言っている意味を十分に理解している。心情も分かっている。

でもやっぱり僕は思う。その瞬間までは100%楽しんで、信用して、信頼して。そう思える人だからこそ大好きで。だから幸せを感じることができるんじゃないかって。

 

 

 

 

人を信じるという事は、相手への期待ではなく、自分への決意なのだと僕は思う。

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

日にち薬

『日にち薬』
とてもいい言葉だなと思った。

5月に誕生日を迎えた19歳の娘の顔が蘇る。

f:id:mifuketa:20210620195029j:plain

娘の誕生日会をやろうと前々から決めていた。
息子共どもスケジュールを開けて、「焼肉食べたい!」という娘の希望も聞き、あとはお店を決めるだけの状態で向かえた誕生日会当日。

誕生日から1週間遅れで祝うその会はちょっとしたトラブルを乗り越えて無事に開催された。

なぜ1週間遅れての開催だったのかというと、彼氏の存在があるからだ。

本物の誕生日当日には一緒に過ごしたい人がいるということである。


1週間遅れの誕生日会。トラブルというのはこの事で、当てにしていたお店が閉店してしまっていた。予約も取らず行動したのが悪かった。そこから慌ててお店を探し、なんとか誕生日会を開催することができた。

 

もう5度目となるお母さん(妻)がいない家族三人の誕生日会。

誕生日というものは、『産まれてきておめでとう!』『無事に今日まで生きてこれておめでとう!』という日。だから周囲の人々は誕生日を祝ってくれる。

でもね、もう一つの意味があるの知ってましたか?僕は最近知りました。


誕生日というのは母親が陣痛を乗り越えて、苦しさに耐えて、この世に僕らを産み落としてくれた日。だからお母さんに『ありがとう』を伝える日でもあるそうです。

なんだか納得。



考えてみれば当たり前のことのように思うのですがこれまで気づかなかった自分になんだか恥ずかしさを感じました。

僕は19回目の娘の誕生日会の場を借りてこの考え方を伝えました。
「お母さんにありがとうの日でもあるんだよ」と。

乾杯をし、初めの肉が焼けるまでの間に伝えたこの内容。この言葉。
言ってしまってから訪れた虚しさ。

娘の「うん」という返事と、無言で肉を反す息子の様子を見て久しぶりに離婚というものの影響の大きさを感じたのでした。

母親がいない生活。妻がいない生活。さまざまな事柄に忙殺されてゆく日々の中で、ふとした瞬間に思い出す彼女の存在。とてつもなく大きな物を失って失ってしまったのではないかと、そんな不安をぬぐい去ろうとする自分に困惑したりして。。。

きっとこの『離婚』という感覚には、いつまでたっても慣れることはないのだろうと瞬間的に感じました。

 

じゅうじゅうと肉が焼け、白い煙が立ち上り、香ばしい香りが食べごろを教えてくれる。

各々に箸を伸ばし口に入れながら少しずつ会話が弾んでゆく。

 

子供たちの口から伝えられる最近の出来事。初めて耳にする事ばかり。

如何に普段の会話が乏しいのか我ながら悲しくなる。

知らないことが多すぎる。僕も会話に加勢しようとこっそり温めてきた転職の意思を話したり。

激務になり、今まで通りには家事が出来なくなるから、手伝い頼むよだなんて、心配させるようなことを言ってしまったのは、自分の不安からくる自信の無さをお酒の勢いで吐き出してしまった結果なのだろう。

 


久しぶりの焼き肉。会話が弾み、僕はお酒がすすみ、ボルテージが上がってきた僕らは、人目もはばからず写真を撮ったりして。

スマホに映るその画像を回し見て娘が一言。

「お父さんと私って似てないのね」




実は僕がずっと気になってたこと。

娘が大人に近づくにつれ、人として外見が、顔が固まってくるにつれ感じる違和感。




確かめる術はある。ある種の『鑑定』をしたならば僕の違和感は明確な答えを得て消え失せる。



大昔に妻と喧嘩したとき、何度か発せられた妻の言葉が脳ミソから消えない。

「墓場まで持っていかなければならない事があるのよ」



当時は何も引っ掛からなかったあの言葉が、今は何故か気になってた仕方ない。



何なんだ?どういう意味だ?

まさかでしょ。




僕は決して調べはしない。鑑定はしない。

万が一の事があった場合、もし万が一があった場合、一人として幸せになる人はいないのだから。


このまま時を経て家族が成熟していく様を、世間に、元妻に、そして娘と息子の母親にこれが現実なのだと表現してゆくだけだから。



時間とともに僕たち三人家族は成熟さを増してゆくばかり。


これから娘や息子はパートナーを得て僕に紹介しにきたり、孫ができたり、いや失恋なんかで落ち込んだり。もしかしたら、家族で喧嘩なんかもするかもしれない。そんな、そんなありふれた日々を僕は子供たちと刻んでゆける。

時を日を重ねるごとに、脳ミソから些細なほんの些細な違和感は消えてなくなる。



なぜなら僕らはたった三人だけの本物の『家族』なのだから。


少しでも誰かの心に響けたら!

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

 

アラフォー毒男の事実婚に対す憧れ 

最近『事実婚』という言葉を知りました。

意味が分からなかったのでググってみたら・・・『内縁』と同意だそうです。

要するに、婚姻届けを提出していないが、生計を一つにして生活していたらそれは『事実婚』となる。

 

僕はバツイチです。結婚生活を18年営んでいました。でもね僕、ずっと昔から『結婚』という形に疑問を持っていました。中学か高校のときからです。男と女が一緒に暮らすことに『結婚』という形を選ぶ必要があるのか?一生を誓い合うのに『結婚』は必要なのか?

 

僕の答えは今も昔も変わらず『NO』です。

このことを女性に話すと ??? という顔をされることが多い。だから自分が考えていることを整理するためにも書き残しておこうと思います。

 

 

 

●結婚は必要です

いきなり矛盾した書き出しになりますが、生活することにおいては『結婚』という婚姻関係は必要です。そんなことは僕だって知っています。税金の優遇が受けられたり、相続の問題も明確です。子供が欲しいカップルはなおさら『結婚』という形をとったほうが、現在の世の中では生きやすい。至極当然のこと。

詳しく調べたわけではないですが、一人の男と女が一緒に生活しようとするならば、『結婚』したほうが得なことが多いです。

 

 

 

●事実婚こそが本物の探求

さて、本題はここからです。

男と女が一生を誓い合うことにおいて『結婚』という形は必要ありません。だってそうでしょ?「一生一緒にいようね♡」は結婚してようがしてまいが実行可能なんですから。

 

『結婚』という形は外部からの力が発生します。なぜなら社会的な器に一緒に入れられたことになるから。壊そうとするとエネルギーが必要になる。膨大なエネルギーです。そういう意味では『圧力』と言っても過言では無いかもしれない。個人の意思で自由に出たり入ったりできないわけですから。

世の中の夫婦には何らかのトラブルを抱えてる人が多い。そして関係がおかしくなり離婚したいと思っている人もいるでしょう。でも膨大なエネルギーを必要とするので、離婚できない。個人の意思が実行しずらい訳です。

 

では『事実婚』はどうでしょう。自由ですよね?器に入ってないのですから。社会的拘束をされてないのですから。

外的な力がまったく働いていない自由な状態で、出たり入ったりが簡単にできてしまう状態で、それでも一緒にいることが出来ることこそ『本物』と言えるのではないでしょうか。

 

 

●今の自分だからそう思える

最初に書きましたが『結婚』は必要です。生活することにおいては。もっというならば、パートナーに対する社会的責任を明確にするためにもです。

でも今の僕はバツイチで、そして子供を授かりたいとは思わない。年齢的にもそうですし、すでに子供と一緒に生活していますから。ただね、もし奇跡が起こるなら『本物』を知りたい。最後まで手を繋ぎ共に人生を歩んでくれる女性と出会いたい。大切にしたいと強く想える、想い合える関係を築きたい。事実婚という形は『本物』を実感するための一つの手段ではないかと思うのです。

このことがどんなに奇跡的なことなのか良く理解しているからこそあえて理想を綴ってみました。

 

最後に一言。

『結婚』とはすばらしいものです。一人の男と女が共に人生を歩むことを強く誓うのですから。そう思えるパートナーに巡り合ったのですから。

健やかなる時も病める時も共に歩むことを誓った二人に乾杯!!

 

 

 

 

いつまで続くか知らんけど・・・・(僻みMAX)

 

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

青空の下に凛々しく今日も

「おはようございます」

 

木元(仮名)さんは今日も変わらずしっかり挨拶してくれた。

僕と木元さんとの関係はちょっと複雑で。だから僕は木元さんのことをほとんど知らない。

 

 

僕の仕事は建築の現場監督。現在、地元ではちょっと話題の建物の管理をしている。竣工まであと3か月。雪から邪魔される前にと、日々の進捗に目を光らせている。

僕が管理している建物の周囲では既に外構工事が進行中。建物がまだ完成していないのに発注元の違う土木工事会社が周囲所狭しとせわしなく工事を進めているのだ。木元さんはその土木工事会社から依頼されている誘導員。道路工事などでよく目にする、赤い棒を振っている人だ。

別の会社が依頼している誘導員なので、僕は木元さんの事をよく知らない。ほとんど会話もしない。

『世界は誰かの仕事で出来ている』という、缶コーヒーのCMのキャッチコピー。考えた人は天才じゃないかと思うぐらい激しく共感したものだが、木元さんもまさにそれ。

誘導員というのは直接何かを作ったりはしない。しかし、工事現場の安全を守るうえでは欠かせない存在だ。周囲を通る第三者の人や車を上手に誘導し、工事関係者との接触事故やトラブルを回避するという重要な任務を遂行しなければならない。木元さんたち誘導員がしっかりと任務を遂行してくれるお陰で施工業者は安心して工事に集中することが出来る。

 

でもね、そんな大切な役割を担う誘導員も誤解を恐れず言うならば工事現場においては『末端労働者』のイメージがあることはぬぐいようもない事実。また、当の本人たちもそのような認識を少なからず持っているからなのか、工事関係者にはとても腰が低い。

僕がよく目にする一般的な誘導員は皆どこか遠慮していて従事している仕事に対してどこか自信が無い。実際に怠慢な仕事をする誘導員も何度も目にしてきた。僕はそう感じる事が多い。

実はそれには大きな理由があって、多種多様な作業員との施工上の指示や打ち合わせに忙殺されている管理者は、誘導員に対して工事内容の詳細までは説明しない。説明されないのだから、自分が携わっている工事内容を知らない分やはり、他者には自信が無くなるのだろう。また、自分の目的意識も薄れてくるのかもしれない。

 

 

ちょっと話がそれてしまったが、僕が施工場所まで歩いて移動する途中に誘導員の木元さんは立っていて、その木元さんとは実質的な関りは無い。でもね、その木元さんが僕は気になって仕方ない。僕が感じている誘導員のイメージと木元さんが重ならないのだ。

 

立ち姿は凛々しく、この季節でも真っ黒に日焼けした肌とは真逆の綺麗な白髪。ヘルメットから覗く襟足やもみ上げの白い髪は綺麗に真っすぐに垂れていて清潔感すら感じられる。年齢は70歳に近いのかもしれない。僕の管理している建物付近に予定に無い急な駐車をお願いしても、てきぱきと誘導し、日々変わる工事車両の待機場所なども全て把握している。通行人には笑顔で対応し決して挨拶を忘れない。

完璧だった。僕にとって完璧な誘導員だった。僕はそんな木元さんを日々、微笑ましく頼もしく眺めている。いつか僕に誘導員が必要になったら、是非木元さんを指名したいものだ。

 

 

そんな木元さんに災いが降りかかった。

先日、通行人とトラブルになったのだ。目まぐるしく往来する重機に通路を阻まれ、それに激怒した通行人が誘導員に食って掛かった。「責任者を連れてこい!」と怒鳴りつけられそして酷い事に到着した責任者からも叱責されるしまつ。どちちらに対しても平謝りする木元さんが可愛そうでならなかった。

 

事の全てを遠くから見ていた僕の感想は1つ。『木元さんは何も悪くない』

第三者と工事関係者をさばこうと、右往左往する木元さんの指示を全く無視して重機は往来し、本来ならば安全を一番に作業するべき人たちが通行人を軽くあしらったのだ。そのことに激怒した通行人が誘導員に食って掛かった。これがトラブルの全て。

 

木元さんは責任者に一切の言い訳をせず、ただ謝罪していた。数分して事が治まった後はまたいつものポジションにしゃんと立っていた。通行人を的確に誘導し笑顔で対応していた。まるで何も無かったかのように。

 

僕はムカついたな。見ていただけだけど、本当にムカついた。木元さんが重機のオペレータに対して怒っても良かったし、責任者に事の詳細を伝えても良かった。でも木元さんはそうしなかった。きっと自分の立場を良くも悪くも弁えたからなのだろう。

 

誘導員はどんな悪天候でも立ち続けなければならない。どんな条件でも安全を守らなければならない。今回のようなトラブルにもめげずに。

 

 

木元さんってどんな人なんだろう。風情ある佇まいや凛々しい風貌。家族はいるのかな?どんな人生を歩んできたのかな?人柄は容姿に現れるという。だったら木元さんの人生の履歴書はとても立派なものだと思う。そこらへんの誘導員らしからぬ木元さんにはどこか奥深さを感じてしまう。

 

 

 

そんな木元さんと昨日、車ですれ違った。冬に向かう昼間の太陽は、車内をほっこりと温めてくれていて、久しぶりに天気の良い休日。渋滞でゆっくりになった車内から何気に外を見た。木元さんが運転していた。

反対車線を走る木元さん。ヘルメットをかぶっていない木元さんの頭髪はやはり白髪で少し長くて。日焼けした皮膚との対比がとても綺麗だった。凛々しくて味のある風貌は変わらなかった。そして隣には同じぐらい白髪のご婦人が座っていた。しゃんと背筋を伸ばししっかりと前を見て。まるで木元さんそのままのように美しい老婦人。

 

木元さんは僕に気づいていなかったが、ゆっくりとすれ違う時、木元さんとご婦人が互いに微笑んだ。何か楽しい会話でもあったのだろうか。二人はあまりにも似ていて、お似合いでピッタリで。

辛い事も沢山あるのが人生で。でもあんなに穏やかに笑い合える人がいるなら、木元さんは大丈夫。

 

夫婦だったらいいな、と思った。あんな笑顔をし合える奥さんが木元さんにいればいいなと思った。

 

もしそうなら、夫婦ってやっぱり素敵だなと思った。

 

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

心無い人の心

どんよりした空を眺めていた。

薄いグレーの雲が空一面を覆っている。

 

今朝がたすれ違った隣の家の旦那さん。なぜあんな顔で僕を見つめていたのか。

あれは見つめていたのだろうか。それとも睨んでいたのだろうか。

 

 

 

運転中のフロントガラスの外はもうすでに、夏色の空気。

朝7時過ぎの通勤ラッシュ。

どうしても僕は今朝がたの伊藤さんの表情に納得いっていなかった。

 

 

 

4年前に離婚してから、両隣のご家族とも疎遠になった。

いまだにはっきりとは離婚した事実を言葉として伝えていない。

『そのうち分かるだろ。すこしほっといてくれ』

離婚の衝撃や心の傷は体験した人にしか分からないしまた、その傷の種類も人それぞれ。そんな気持ちから僕は、わりと親しくしていたお隣の人たちにさえ何も伝えないままこの4年を過ごしてきた。

 

いつのまにか無くなってしまった妻の車。

一台分がちょうど空いている。

どのぐらい経ったら『おかしいな?』と思い始めるのだろう。奥さんの車が無いってことに、いつから気づき始めたんだろう。

 

今はそんなことを聞いてみたい。近所の人たちに。

そういえば町内会費の集金が来なくなった。もしかして『ひとり親』に対する気遣いなのか免除なのか。

 

 

通勤時の車の中。久しぶりに離婚にまつわる色々な思いが頭の中を占領していた。

ちょうど一か月前。愛車をぶつけた。その車がやっと修理を終え戻ってきた。

運転に集中できていない僕は自分に「おい!こんなんじゃまたぶつけるぞ!」と声に出して言ってみた。その声は社内に散らばって消えていく。僕の心には留まらなかった。

 

 

汚いものを見るような目で僕を見ていた伊藤さん。

理由は分からない。何せ疎遠になってしまったのだから。関りが無くなっているのだから。

だからこそ余計に気になってしまっていた。

 

 

 

 

一か月前に車をぶつけた日のこと。

仕事で疲れて帰ってきたら洗濯物の山。時間は20時を過ぎていた。

季節がら室内干しでは乾きづらい。僕は仕方なくコインランドリーに行くことにした。

まだ夜ご飯も食べていない。

自宅で洗濯しそれをランドリーバックに詰め替えて、車で5分とかからないコインランドリーの乾燥機目指して夜の街を走った。

300円で33分。

疲れていた僕は車内で眠ってしまっていた。

住宅地の交差点の角にあるそのランドリーは、全面ガラス張りで内部が完全に見える作り。店内の照明がやけに明るくて、その建物だけが夜に浮かび上がって見える。

明かりに誘われて虫たちが窓にしがみついている。

入口上部にある照明器具の周りを、元気な虫は飛び回りときおりぶつかって音を立てていた。

300円で約束された時間をとっくに過ぎて目覚めた僕は、空腹もあって早く帰りたかった。

乾燥機から取り出した洗濯物の乾きを確認する。パリッパリに乾いた衣類やタオル。そのことに満足して、たたむことなくランドリーバックに詰め込んだ。

「しわになるよな・・・」小さく呟いてみても誰もたたんでくれる人などいない。僕は一人なのだから。

自動ドアを出ると外の湿度の高い空気が僕にまとわりついた。

『帰ろう』

そう思った。僕には幸い帰る場所がある。子供たちの待つ家へ帰るのだ。

最近では会話の少なくなった子供たちとの関係も別に悪いものじゃない。成長という過程の中にいる僕らは母親を置き去りにして家族の新しい形を作ろうとしている最中だ。

 

孤独ではない孤独感と空腹が僕をコンビニへと立ち寄らせた。

22時を過ぎたレジには、どうみてもやる気の無さそうな店員がスマホを見て立っている。

来客の合図を告げる音が客のいない店内に響いた。

ビールとつまみを買い、3円払ってレジ袋に入れてもらった。疲れからくる眠気で目がシバシバしていた。疲労感もあった。店員の心無い「ありがとうございます」は気にならなかった。

頭から突っ込んだ車を今度はバックで方向転換したときのことだ。バッフと音がしてリアガラスが飛び散った。後方不注意で、敷地内の街灯に車をぶつけた。

リアバンパーやリア扉が凹んでいたし、ガラスも割れた。街灯を壊してしまったかと思い車を降りて確認したが幸いにも街灯は無傷だった。白い電球の付いた街灯周りには、夜の虫が元気にクルクルと飛び回っていた。

 

 

 

たまに自分が空しくなる。やはりその原因は離婚に起因する。

だから身に覚えのない伊藤さんのあの顔も離婚に結び付けてしまう。

あの顔にはどんな意味があるのだろう。こんどは無視しようかな。

ぺこりと頭を下げた僕を無視した伊藤さんに対抗して。

 

 

 

心無い人の心無さの意味を僕は理解できない。何の意味で、何の目的でその『心無さ』が発揮されるのか。

自分の行いは子供に見せれるのか。自分の子供にその心無さが向けられたとして、伊藤さんはどう思うのか。伊藤さん自身に向けられたらどう思うのか。

 

ただし、車をぶつけたあの日のように、僕には僕の世界があって、伊藤さんには伊藤さんの世界があって、それは決して交わると来なく平行して、隣り合って存在していて、その世界観はきっと理解できないものだから、伊藤さんはまた僕に『あの顔』をするんだろうと思う。

 

 

僕が珍味『真ソイ』の刺身を食べてる時、どこでどんな顔をしてるのだろう。

 

f:id:mifuketa:20200805164009j:plain

 

僕がお姉ちゃんに鼻の下を伸ばしながらお高いボトルを注文しているとき、どこでどんな顔をしているのだろう。

f:id:mifuketa:20200805164145j:plain

 

伊藤さん。申し訳ないけど僕は気分が悪い。

あの日の朝、あなたから向けられたあの顔は忘れられない。

 

どうか罰が当たりますように。

 

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした  あとがき

このたびは 『墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした』を読んで頂きありがとうございました。

 

 

身ばれ対策として、少し背景を変えて書きましたが、物語の内容は全て事実に基づいております。

第6話に貼り付けたmixiのメッセージ写真ですが、「衝撃過ぎて他の人にも見せたい」「出所はバレないようにする」という約束を健吾にしました。

健吾自身はというと、「SNSで拡散してくれよ」と冗談で返せるぐらい気さくに了承してくれました。

あの写真は現物です(名前は変えてある)

 

 

 

 

 

 

さて、今回の早苗と健吾の物語。読んで頂いた方は、どのように感じたのでしょうか。

ザックリですが物語の内容をおさらいしてみます。

 

 

ある日、僕の携帯に早苗から着信が入ります。

早苗は友達の奥さんです。折り返してみると「聞いてもらいたい話がある」と神妙な声です。

僕と早苗は日を改めて居酒屋で会うことになりました。

 

離婚の相談だなと思っていた僕に、案の定そのような内容の話をしてきた早苗。

家庭内別居状態であり、その原因は健吾の浮気と不倫。このままでは子供たちがかわいそうだから、健吾がこれからの家族をどうしたいのか、その考えを聞いてみてほしいという依頼を受けます。あくまでも被害者は早苗と子供たちです。これが早苗の言い分でした。

 

 

その週末。今度は健吾と会いました。

やはり健吾には健吾なりの理由がありました。

健吾が結婚前にしてしまった一度の浮気のせいで、早苗と健吾の関係は歪んだものになってしまいました。

本来なら結婚するべきじゃなかった。早苗の心の中には、いつまでも消えない『健吾の浮気』の傷が残っていたのです。

しかしどうでしょう。実際のところはその『傷』だけではなく、早苗自身の浮わついた気持ちが多分に感じられる早苗行動。

早苗は健吾のせいにして、結婚しているにも関わらず浮気や不倫を繰り返します。全て健吾の大昔の過ちのせいにして。

 

 

健吾は自分の行いを反省し、必死で関係改善に努力しますが、どれだけ時間が経とうとも早苗の行動が変わることはありませんでした。

そして健吾は衝撃の情報を目にします。

早苗との関係改善は健吾の人生の必須事項でした。子供たちのためにも。

しかしその衝撃の情報によって健吾の気持ちの糸は切れてしまいました。早苗に対する愛は消えてしまいました。

 

 

初めは早苗からの離婚相談かと思いきや、結局離婚を望んでいるのは健吾のほうで、それを阻止したいのは早苗の方だったのです。

 

 

 

 

何なんでしょうか。ここまで書いてみて、とても気分が悪いです。くだらないです。

正直言って、『墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした』を最終話まで書くにあたり、とても疲れました。

 

 

 

僕は健吾に同情してしまいます。

健吾ね、家事の全ても行っていました。早苗がそう望んだので。『過去の大罪』を理由に早苗は、健吾を責めに責めまくっていたのです。

 

 

健吾。よく耐えた。よく何年も頑張った。

もうここらで良しとしようぜ。

確かに自分の浮気から始まったことなのかもしれない。でも早苗は酷すぎる。度を越した対応と行いだ。今の健吾はまるで奴隷じゃないか。夫を奴隷扱いする、出来る人となんか一緒にいるべきじゃないよ。

 

 

健吾。リセットするんだ、人生を。

子供たちを引き連れてやり直すんだ。

今までよく頑張った。お疲れさま。

 

 

 

さあ、最後の一踏ん張り。

離婚に向けて知恵を貸すよ。僕にはいいアイデアがあるんだ。

健吾が本当に離婚を望むならそのアイデアを教えよう。喜んで。

 

 

 

 

早苗と健吾の物語の結末はまだ分かりません。

しかし夫婦とは本当に分からないものですね。端から見ると幸せそうな家庭も、実際のところはどうなのか分かったもんじゃない。

 

 

 

現在結婚している人。その人たち全てに、何らかの物語があるのだと思います。

 

 

『結婚』って何なんでしょうね。どうしてあんなに仲が良かった二人が変わってしまうのでしょうね。それはどの段階から始まるのでしょうね。何がきっかけになるのでしょうね。

 

 

もしチャンスがあるなら僕は、『それ』を解き明かしたい。腐り始めるその味をなめてみたい。

自分にまた『それ』が訪れたなら、今度は防腐剤を用意しておくから。

 

 

www.hontoje.com

www.hontoje.com

www.hontoje.com

www.hontoje.com

www.hontoje.com

www.hontoje.com

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした【夫編】 第六話

ここまで淡々と書いてきた。少しでも早苗と健吾の関係性を伝えたくて。

全てはこの画像の為である。この画像を見て頂きたかった。

人間とは、女性とは本当に怖い生き物である。

不快な思いをされる方もいらっしゃるかもしれない。しかしこれが現実なのだ。

これが人間なのだ。

 

※この話の続き

www.hontoje.com

 

健吾からのラインを開いたとき。画像を見た時、直ぐには意味が理解できなかった。

三回読み込んでやっと事の重大性に気づいた。

まさか、まさかだろ・・・こんなこと現実に起こることなのかよ・・・

健吾から送られてきた画像はあまりにも突飛すぎて、現実離れしていて。

「こ、これ何?」

僕はこれしか言葉を返せなかった。

 

 

 

僕がラインを見て凝視して、三度も読み返して目が携帯から離せなくなっている時、健吾は焼き鳥を注文していた。

ネギ間、せせり、やげん軟骨、レバー、シイタケ・・・注文が続いていく。

おい!もう食べれないぞ!と言おうとして僕が携帯から顔を上げた時、「全部塩で」と店員に伝え終わった健吾は「悪いけど今日は割り勘でいいか?」と僕の方を向いた。

 

割り勘で構わないし、いつも割り勘じゃないか。なんでそんなこと聞くんだよ。

あぁ、そっか。今日は自分の為に、相談をするために飲みに来たから気を使ってくれたのかな。

 

「そんなことどうでもいいけいど、これ何?」

僕はもう一度健吾に質問した。僕の質問が聞こえているのかいないのか。健吾はまた店員を呼び止め、今度はメガハイボールを二つ注文する。そして左を向いて窓の外を眺めた。

 

健吾が見ている窓の外には何も見えない。店内が明るすぎてガラスに反射して、外から入ってくる弱い明かりはかき消されている。僕も健吾の顔が向いている方を見てみたが、僕たちの頭の上に吊るされたチョウチン型の照明が鏡のように写っているだけだった。

窓の方を向いたまま健吾は「早苗には出ていけと伝えてある。もう離婚は確定なんだ」と言った。

何だか話の方向が変わってきた。

元はと言えば健吾の浮気が発端で、そこから束縛し合い二人の関係性が悪化。妊娠中の健吾の不倫を機に夫婦仲は冷めきり現在は家庭内別居状態。

早苗と健吾のここまでの話をまとめるとこのようになる。過失は健吾にある。それなのになぜ健吾は早苗に出ていけといったのか。なぜ離婚は確定なのか。

 

時間は間もなく21時にさしかかろうとしている。店内にはまだ客が多く賑わいは収まりそうにない。店内のガヤガヤした音は今日の僕たちにとって都合がいい状態だった。

メガハイボールを二人して受け取ったタイミングで健吾はまた話し始めた。

 

「早苗さ、ずっと不倫してるんだ」

健吾の言葉の意味する『不倫』とは僕の定義と一致するのか分からないが、とにかく早苗は健吾以外の男と大人の遊び以上の関係を持っていると理解した。

 

健吾曰く、どうやら早苗は結婚当初から男遊びが好きで、健吾の目を盗み、騙し不貞行為を繰り返していたようだ。発覚するたび喧嘩し、和解し二人で歩むことを約束してきた。なぜ健吾は和解できたのか?それはやはり自分の浮気と不倫があったから。早苗の不貞が発覚するたび早苗は、「あなたが悪い」とその都度健吾の過去を責めた。「仕返し」だと言った。「妊娠中の不倫なんて最低だ」と言った。そうなると健吾は黙るしかなかった。

ここ数年、家庭は荒れている。このような状況になってきたとき、二人を案じてなのかさらに悪化させたいのかその意図は分からないが、早苗の行いが健吾に伝わるようになってきた。早苗の周囲の人間から。早苗の不貞行為は健吾に発覚した事柄より多かった。

自分の束縛を取り去ろうと、過去を反省し真面目に生きてきた健吾。友達もいなくなり家庭に閉じ込められてもなお、さらに家庭を大事にしてきた健吾。早苗を信用してきた健吾。でも実のところ不貞を繰り返していたのは早苗の方だったのだ。

 

 

人を疑うのは、自分の心にやましい事が浮かぶから。自分が勝手にやましい事を思いついてそれをパートナーがやっているんじゃないかと不安になるから。やましい事を思いつくというのは、自分に欲望があるからなのだ。

早苗の執拗なまでの健吾への疑いはまさにこれ。早苗自身やましいことをしていたので、健吾も同じなのだろうと想像していた。

 

 

「お待たせしました!」と店員の明るい声が場違いで。。。

長い長方形の皿に塩が振られた焼き鳥が並んでいる。僕はタレ派なんだけどな。そう健吾に伝えると、「それは邪道だ」と言われた。

 

他人事だが健吾がいたたまれなくなってきた。自分だったらと、想像するのも怖い。

「さっきの写真さ、mixiのメッセージなんだよ」

そう言ってあの驚愕の画像の解説が始まった。

 

6年前、早苗と健吾は初めてご両家を巻き込んだ大喧嘩をした。その時早苗は子供を置いて家を出て行った。もちろん早苗には行く当てがあったということだ。この時健吾の不倫などが両家の両親に伝わることになる。頭が上がらなくなった健吾は早苗の不貞のことは口にせず、自分の過去の過ちだけをひたすら謝罪した。この時早苗にも健吾にも離婚の意思はなかった。だから「あとは二人で」とご両親たちの言葉を頂いたとき、早苗との関係修復の為、健吾は邁進する。

幼い子供たちが残された家庭を健吾は一人で家事をこなし仕事をし、早苗を待った。

一か月程度の期間であったが、それは健吾にとって途方もなく長い時間に感じられた。

携帯にも出ない早苗のことが心配になり、ずっと昔に使っていたmixi経由で早苗の友達にメッセージを送った。少しだけ家庭の事情を説明した。じゃないと早苗の味方であるはずの友達は教えてくれないと思ったから。だって完全に健吾が悪者扱いされているだろうから。

そんなに深くまで説明していないはずの健吾のメッセージに早苗の友達は何を勘違いしたのか驚愕の内容が返ってくる。その返信で健吾は、驚愕の情報に触れる。

 

 

 

f:id:mifuketa:20200718102619j:plain

早苗には仲良し四人組がいる。その中の一人とメッセージをした。その返信の一部がこれ。最近早苗と女子会を開いたときのことのようだ。

 

寝耳に水である。そんなことがあったなんて知りもしない健吾。

このメッセージを読んだ健吾は体の震えが止まらなくなったそうだ。職場のディスクで昼食をとっていた手が止まり、震える体を押さえて、訳も分からず車に乗って会社を出て、近くのコンビニで気持ちが落ちつくまでじっと時間が過ぎるのを待った。

 

 

 

この日を境に健吾の気持ちは変わった。早苗が家庭に復帰してからも離婚を前提に早苗に接するようになる。

自分の過去の不貞のせいで早苗との関係が悪化していると思っていた健吾の気持ちは一変した。自分の家庭が荒れている根本原因は自分だと思っていた健吾の気持ちは変わった。いつまでも過去の過ちを責め続ける早苗に、そのことを理由に仕返しだといって不貞を繰り返す早苗に諦めが付いた。

健吾の早苗に対する愛は消えた。

 

関係修復を目標にしていた健吾の態度が一変したことに気づいた早苗は歩み寄りを見せてきたが、時すでに遅し。

 

 

 

あの日から6年。

あのメッセージから6年経過する間に健吾は着実に離婚に向けて準備を進めてきた。そして今この時、準備は整った。

親権を早苗に渡す気は無い。これからきっと早苗と健吾は裁判になる。とても協議離婚で納まる内容じゃないから。

 

 

 

早苗はメッセージを知らない。

健吾の『墓場まで持っていく話』が公衆の面前で表ざたにならないことを祈る。

 

 

 

おわり

※あとがきに続く

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした【夫編】 第五話

「そもそも俺たちは、ずっと前から破綻していたんだ」

「結婚なんて出来る関係じゃなかった・・・」

 

僕の顔を見ていた健吾は再び目線をテーブルに落とした。

僕の後ろに座っている隣の席の客の笑い声が下品で僕は健吾から目線を外し、少し振り返った。小さく舌打ちして直ぐに向き直ったとき、そこには涙をこらえている健吾がいた。

 

 ※この話の続き

www.hontoje.com

 

「今の早苗は、俺の知っている女じゃない」

「優しかった早苗はもういない」

 

話が飛ぶ。目の前に僕がいるのに健吾は、独り言を言っているかのように何個か言葉を吐き出した。

まだビールは二杯目だ。酔っている訳じゃない。だから心配になった。これはかなりヤバいと思った。今の健吾は精神的に弱っている。間違いなく。

早苗の束縛のせいで健吾は多くの友達を失った。だからきっと相談する人さえいなかったんだと思う。まして家庭の事情なんてそうとう信用のおける人にしか話すことはできない。人は他人の不幸をどこか、喜ぶ癖があるようだ。簡単に他人に家庭の事情なんて話せるもんじゃない。

幸いにも僕はそのような人種じゃない。気が済むまで話してほしい。健吾の不幸は密の味じゃない。健吾の顔を見ているだけで、その雰囲気だけで心が痛む。離婚に悩むってことは身を切るような痛みと苦痛を伴う。僕は経験者だ。だから、だらか役にたてることがあるなら、何でも言ってほしい。

今の僕にできる事。それは健吾の話を全部聞いてあげる事。健吾の体の中に溜まったモヤモヤを全て外に吐き出させてあげること。

 

「ちょっと落ち着こうか」

僕はそう言って、ウーロンハイを二つ注文した。

いつの間にか来ていた馬刺しユッケをチビリと食べている健吾。枝豆を口に運ぶ健吾。それを最後のビールで流し込む健吾。

僕らは少しの間、無言だった。周囲はガヤガヤと賑わっていて、みんな幸せそうで。

斜め前に座るカップル。互いに歯を見せ合って笑っている。

どこからか聞こえる子供のはしゃぐ声。手際よく働く店員の姿。店内の照明の白い光さえ世界の『幸せ』を作り上げている一部のように見える。

離婚してしまった僕。離婚しようとしている健吾。この二人にはなんだか場違いな場所のように感じられた。

 

 

店員が運んできたウーロンハイを健吾は直接受け取った。ちょこんとお礼の会釈してそのまま一口飲んだ。

どこかで見た光景。すぐに思い出した。先日の早苗だ。

駅前のチェーン店の居酒屋で早苗も同じことをしていた。別に珍しい行為ではないが、なんだか似たもの夫婦って感じがして、離婚話の時だからこそ、なんだか切なかった。

 

 

 ここから健吾の話がノンストップで30分ぐらい続いた。

 

結婚前に自分が浮気をしたこと。その行為に早苗は浮気して仕返ししたこと。

そこから互いに信用できなくなり、束縛し合ったこと。

束縛し合っているうちに、自分の行動を制限されていることが辛くなった。

もっと自由に行動したい。友達と遊びたい。気兼ねなく仕事をしたい。必要な残業だって飲み会だってある。もう浮気なんてするつもりも無いのだからそのことを分かってもらいたい。

とにかく健吾は不自由だった。何をするにもどこに行くにも早苗に報告し許可を取っていたから。挙句の果てには電話攻撃で逐一行動をチェックされる。

一緒にいる人に対してとても恥ずかしかった。もうこんなことは止めて欲しい。

自由に楽しく信頼関係をもって早苗と生きてゆきたい。

互いに束縛し合っていく中で健吾はそう思うようになった。だから健吾は早苗に対する束縛を止めた。

早苗が出かけても電話もせず何をやってきたかも質問はせず、「お帰り。楽しかった?」と普通に接し、早苗が出かけても疑いや嫉妬のないことを行動で伝え続けた。そうしていればいつか早苗も自分に対して同じようにしてくれると思った。自由に人間らしい行動ができる楽しさや気楽さを知ってもらえば、早苗の凝り固まった考えも変わってくるだろうと。

 

そうしているうちに長女の妊娠を迎える。これ以前から早苗は友達と出かける事が多かった。そのことを微笑ましく感じていた健吾。『もう俺は疑ったりしていないよ』と行動で伝え続けた。妊娠中に朝帰りすることもあった早苗だが。そのことにだって文句も言わなかった。しかし早苗の束縛は一向に終わることが無かった。

『自分だけ・・・』いつしか健吾はそう思うようになる。早苗だけ自由に気ままに出かける。自分には友達すらいなくなってしまった。

このとき早苗とよく遊んでいたのが後に、健吾の不倫相手になる女性だ。

早苗に怒りさえ感じていた時期に健吾は理想の女性に出会った。やがて健吾の心は徐々にその女性に惹かれていく。

そして仕事の飲み会の途中。早苗からの束縛電話に対応しようとトイレに向かった先で健吾は、早苗の友達であり理想の女性である人とばったり鉢合わせすることになった。

 

 

ここまで一気に話した健吾は、ウーロンハイを全て飲み干した。

正直言ってくだらないなと思った。言葉には出さなかったけどね。

男と女の間にある空気みたいなものは、その二人にしか分からない歴史から作られていて、それが夫婦ともなると生活も伴い独特の関係性に発展していく。犬も食わない夫婦喧嘩も他人から見れば笑いごとだが、当事者にとっては真剣な争い事なのだ。

 

f:id:mifuketa:20200716134358j:plain

 

このお店に来て1時間ぐらいは経過しただろうか。僕はあることに気づいた。

焼き鳥が無いのだ。焼き鳥屋に来たというのに一本も注文していない。

はて、、、この状況で『焼き鳥』というポップな響きの食べ物を注文していいものか。

健吾に「焼き鳥、何にする?」なんて聞いていいものか。。。

 

健吾の話がくだらなすぎて、さっきまで心配していた僕の頭の中に【焼き鳥】という邪念が入り込んできた。

 

焼き鳥の種類を確認するためにメニューに手を伸ばそうとしたとき、「ちょっとこれ見てくれよ」と健吾が僕にラインを飛ばしてきた。

 

そこには驚愕の画像が貼られていた。

 

つづく

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした【夫編】 第四話

 「お前、、、何やってんの」

僕は座りながら健吾にそう言った。

チラッと僕の目を見た健吾はすぐに視線を外し、テーブルの真ん中あたりを真顔で見つめている。

 

 

早苗と会った時から日を置かずに健吾に連絡した僕はその週末、家の近くの焼き鳥屋で健吾と会った。

 

 

※この話の続き

www.hontoje.com

 

 「お車でお越しのかたはいらっしゃいますか?」

お通しのおしぼりを配りながら店員が僕たちに尋ねる。

 

 

僕はこの焼鳥屋を頻繁に利用している。

家の近くということもあり、自転車か徒歩で来ることができる。代行を呼ぶ必要がないので節約になるし、それなりに賑わっていて会話に聞き耳たてられたとしても聞こえない。

年中提供されるお通しの枝豆は、何度注文しても無料という、酒好きには嬉しいシステムもある。

僕はこのお店をとても気に入っている。

 

 

 

健吾も僕も今日は自転車で来ていた。

そのむねを店員に伝えると『今日も一日お疲れさまでした』と書かれたコースターが配られた。

もし車で来ていた場合には『代行車を利用します』のコースターが配られる。

飲酒運転撲滅に一役かおうとするお店の姿勢が素晴らしいし何より、そのような行為に対して注意喚起することで、お客さんを守ろうとしているお店側の心配りが嬉しい。

f:id:mifuketa:20200709144719j:plain

 

僕たちはとりあえずビールを注文しお通しの枝豆に手をつけながらメニューを眺めていた。

 

「離婚するから」

メニューで顔が隠れた後ろから健吾の声がした。

早苗のあの話を聞いた後だ。別に驚くような言葉ではなかった。

結婚式に招待した人を目の前に気まずく思ったのか、それともただ食べ物を選んでいるのか分からないが、健吾はメニューで顔をかくしたまま続ける。

「これはさ、俺だけが悪いんじゃない。早苗もかなり悪いんだ」

 

「不倫したのは健吾なんだろ?しかも妊娠中に。それ、酷いだろ」

 

ビールを待っている間、僕と健吾のこんな会話が続いた。

 

僕たちの会話を割くように、「お待たせしました」と店員がビールを運んできた。

 乾杯はしなかった。グラスを合わせることはしなかった。めでたい話しじゃないからね。

お互いに一気に半分飲みほした。唇の周りについたであろう泡を僕は、手の甲で拭いた。

「言い訳聞くから話してよ」

そう僕が促すとため息をつきながら健吾は事の流れを話し出した。

 

 

 長女の妊娠が分かった時を同じくして健吾は、ある女性に出会った。

それはとてもとても綺麗な人だったそうだ。

健吾はその女性と何度も遭遇した。会うたびに彼女はフレンドリーに健吾と話をした。それもそのはず。その女性は早苗の友達。

 

早苗の強烈な束縛に辟易していた健吾は少しずつ心に隙間ができ、その隙間に早苗の友達が入り込んでくるようになった。

彼女は独身。話題の豊富さや冗談のツボも合い。話していてとても楽しい。そのうえ容姿も健吾の好みバッチリで生活感溢れる早苗とは違い、キラキラと輝いて見えた。

 

 

そんなあるとき、仕事の飲み会に参加していた健吾は、店のトイレでばったり早苗の友達と鉢合わせした。

胸ポケットの携帯は早苗からのいつもの疑いと束縛の着信が震えている。その着信に出ようとトイレに立った時の鉢合わせだった。

たった一度の浮気を悔い改め健吾は、早苗の信頼を取り戻そうと一生懸命生きてきた。本当に真面目に生きてきた。

今だって仕事の最中だというのに律儀に早苗に対応しようと席を立ったところだ。同席している人たちに不快な思いをさせないようにとの気遣いもある。

飲みの席で嫁さんから電話が来たなんて、恥ずかしくて言えたもんじゃない。

 

健吾にはこんなことが何度も続いていた。どんなに頑張ろうとも、どんなに年数が経とうとも一向に早苗は健吾を信頼することはなかった。健吾は早苗にいい加減うんざりしていた。

目の前にはとてもとても綺麗な女性がいる。キラキラと輝く女性がいる。

冗談だった。冗談のつもりだった。

健吾はばったり遭遇した早苗の友達に「今度二人で飲みに行かないか」と誘いの言葉を投げていた。自分は酒が入っている。冗談だって!が十分に通用する場面だ。

驚くことに返答は「OK」

そこから健吾の不倫は始まった。

 

 

ここまで黙って聞いていた僕は呆れてしまった。健吾と早苗の友達に。

健吾のグラスも確認しないでビールを追加した。自分の分だけ。

確かに恋愛にルールは無い。男と女が出会った時、そのこに何かの引力がはたらいて猛烈に惹かれ合うことはあるのかもしれない。その引力がなんなのか。そんなものは誰にも分からない。だから恋愛にルールは無いのかもしれない。

しかし、ルールは無いがモラルは必要。まして健吾は既婚者。自分の立場を考えれば、妻以外の女性を好きになるという行為がどんなに危険なものなのか、考えなくても分かる。

確かに健吾の気持ちは分かる。そりゃ僕だって男だもの。タイプの女性が身近に存在したなら、いたずら心が湧かないとは言い切れない。でもそれはあくまでも自分の心の中だけの事。実際に行動するなんて出来っこないし、しようとも思わない。パートナーを裏切るということもあるが、家庭崩壊というリスクは一時の火遊びには大きすぎる。

 

早苗も早苗である。いい加減に健吾を信頼してあげればいいものを、執拗に健吾を束縛するその様は、一種異様さを感じさせる。しかしそれは、裏切られた人にしか分からない心の傷であるかもしれないし、または健吾を愛する気持ちからなのかもしれない。

 

 

健吾が話す不倫の話はもう既に何年も前のこと。僕は呆れはしたが、割と冷静に聞いていることができた。

「もうその女性とは終わったんだろ?」そう尋ねる。

 

数か月付き合って別れたそうだ。これは男性あるあるかもしれないが、健吾の方が本気になり真剣に離婚を考えた。離婚を行動で示そうとした矢先、不倫相手の女性は引いた。行動に示すとはつまり、早苗に離婚を切り出したのだ。長女が生まれてまだ3か月も経っていなかったという。

 

「離婚はその前から考えていた。どうにかしてこの不自由な環境を変えたいと思っていた」

健吾には早苗に対する不満がいくらでもあった。離婚したいという言い訳はなんとでもなった。

確かに健吾の気持ちは分かる。健吾の行動にいちいち不安になり疑わなければならないなら、そもそも健吾と結婚なんてしなければいいのだ。健吾が浮気をしたのはまだ付き合っている時だ。そんなに疑わしい相手なら結婚などしなければよかったのだ。

 

離婚は不倫する前から考えていたという健吾の気持ちは分からなくもない。

 

 

「確かに早苗の束縛は異常だからな・・・・」

僕用に運ばれてきたビールを受け取りながら、健吾の分も注文してやった。

健吾は早苗のせいで友達を沢山失ってきた。友達づきあいは特に早苗の疑いを強めたから。『外で何やってるか分かったもんじゃない』これが早苗の口癖だ。

僕が遊びに行ったとき、冗談なのか本気なのか分からないテンションでそう言っていたから。

 

意外に早く健吾のビールが到着。

「あのさ」と言って健吾はビールを一気に飲んだ。今到着したばかりのビールは、残り四分の一を残してテーブルにそっと置かれた。

座りなおした健吾の顔はとても真っすぐな目が付いていて。ちょっと怒っているようなもしくは、泣くのをこらえているような、そんな表情だった。

 

「この話は墓場まで持っていこうと思ってたんだけど」

 

テーブルの上に両腕を組み、肘に体重を乗せ前のめりになり、何故だか背筋を伸ばした健吾はそのまま淡々と語りだした。

 

 

 

僕は科学的思考の人間だから、元来お化けの類は信じていないし怖くも無い。

だって僕は知っている。お化けなどより人間の方がよほど冷酷で恐ろしい生き物であることを。

健吾の話はまさにその証明だった。

 

 

 

つづく

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした【妻編】 第三話

 正確には『まだ』と付いていたはずだ。

『まだ健吾のことが好きなの』

僕には完全に夫婦関係が破綻しているように思える内容だった。しかしまだ早苗の中には健吾に対する想いが残っているという。

 

※この話の続き

www.hontoje.com

 

 

 

「は?」

思わず僕はそう発していた。ここまで破綻した、破綻しているようにしか感じられない関係においてまだ、相手に対して気持ちがあるという意味なのか。

 

 

 

「どういう意味なの?」

今度はちゃんとした質問の形になった言葉を伝えた。伝えたつもりだった。

でも早苗が話し始めたことは、はたして僕の質問に答えたことになるのだろうか。

 

 

f:id:mifuketa:20200703160645j:plain

 

窓の方を向いていた早苗は、運ばれてきた新たな烏龍茶を直接手で受け取り、店員に小さくお礼の会釈をし、直ぐに二口飲んだ。

目の前にあるポテトフライをつまみ、添えられてあるケチャップをディップし口に運んだ。

おちょぼ口で取り込み咀嚼している様を僕は見つめている。

 

改めてまじまじと早苗を見ると、やはり昔より老けていた。

最近メガネを新調した僕の視界は良好で、早苗の目尻の小じわや、老い特有の口元のしわまで見える。

 

僕と同じ歳の早苗。今年で43歳になる。

目の前にいる早苗の容姿が年相応のものなのか僕には分からない。

しかしながらギリギリ保ってるっていう感じがした。きっと髪が綺麗だからだろう。

真っ直ぐでツルンとしてて、キューティクルだっけ?とにかく光を反射していて凄く綺麗に見えた。

髪の毛一つで印象は違う。

良く手入れしているんだろうな。失礼だが近所で見かける奥さんたちとは全く違う印象を早苗に持った。

 

 

 

「健吾の浮気はこれが初めてじゃないんだ」

口に入れたポテトフライが無くなったのか、もしくは最後を流し込むためか、烏龍茶を一口飲んで、そのグラスを見つめたまま早苗はそう言った。

 

 

『浮気』と『不倫』

どちらかが、若しくはどちらも既婚者で『本気』になったら『不倫』であり、既婚、未婚問わず、遊びでパートナーを裏切ったら『浮気』という認識を僕は持っている。

きっとこの僕の認識は一般的なものとは違うのかもしれないが、その事を早苗に問うのは止めておいた。

 

 

 

グラスを見つめたままの早苗の話は、そのまま続いた。

 

地元を離れ就職した健吾。示しを合わせたように早苗も同じ町に就職することになった。

二人の間では、冗談混じりに同棲の話題もあったのそうだが、それは若い恋の最中の甘い甘い冗談で終わった。

準備も含め少し先に健吾は新しい街に住み始めた。一週間後に早苗も、自分のアパートに引っ越した。そのわずか一週間の間。その間に健吾は浮気をし発覚した。

 

「凄くショックでね。だから仕返ししちゃった」

 

『仕返し』の中身は聞かないでおいた。

「仕返ししちゃった」と言った時の早苗の笑顔が怖かったから。

少なくとも僕には『ショックで』仕返しした人の笑顔には見えなかった。

自分の行動を恥じた『はにかみ』ではなく、若気の至りと好奇心輝くキラリと光る笑顔のように僕には見えたから。

 

 

 

その時、浮気をした健吾は泣きながら謝罪し、早苗の仕返しを聞いてもなお、健吾は別れを切り出さなかったそうだ。もちろん早苗も別れるつもりなどなかったようだし。

 

その後、その事件の後、二人の愛は深まった。

早苗はそう言った。どんなことがあっても離れることはできないのだと、確かめ合うことができた出来事だったそうだ。

 

 

 

早苗の言う『愛』は歪んでいる。

僕は知っている。健吾の浮気の事じゃなく早苗の健吾に対する仕打ちを。

健吾に対する愛とう言葉でカモフラージュした『疑い』や『嫉妬』を。

 

 

 

 

早苗は健吾を監視していた。見えない時間まで把握しようとした。

確かに健吾が浮気をした事が原因なのだと思うし、そう思いたいのだが、早苗のそれは酷かった。

 

 

まだ健吾が独身の時。

健吾と飲んでいると決まって早苗から電話が来る。何やら申し訳なさそうに会話している健吾。

「いつ帰ってくるの?」

「いま、何やってるの?」

そんな事を聞かれるそうだ。

 

 

誤解しないでいただきたいのだが、男は自分の彼女や妻のことを外部に対して悪口を言ったりしない。少なくとも僕の回りの男性はそうだ。

 

 

何度か健吾と飲んでるうちに、あまりにも頻繁に繰り返し電話をよこす早苗の様を見て、健吾に僕が問い詰めて、やっと聞き出した事である。

 

 

結婚してからもそんな早苗の行動は変わらなかった。

仕事の接待で同行し飲み会に参加している健吾に対しても、何度も電話をかけ、決まって「いつ帰ってくるの?」という質問をぶつけるようだった。

 

健吾は徐々に付き合いが悪くっていった。

仕事の飲み会はどうだか知らないが、年数を経るごとに僕の誘いを断る頻度が増し、そして同じ町に住み、何時でもどこでも会える環境にあるはずの僕との付き合いも、年に一度がやっと。

やがて健吾は家庭に閉じ込められた。僕はそう感じていた。

 

 

 

 

過去の浮気の話をして、当時の感情を思い出したのか、はたまた連鎖的に不倫のことまで思い出しているのか分からないが、早苗は少し興奮していた。

その勢いのまま「私は離婚はしたくない」「だって大変なんでしょう?」

 

僕はこの質問に違和感を感じた。

 「健吾のことが好き」と言った割に、大変だから離婚したくないとも捉えられる表現。

とりあえず僕はその違和感を飲み込んで、離婚についての『大変』を経験した者として早苗に伝えた。

物理的に一番やっかいなのは、連帯債務になっている住宅ローンだ。そして最も重要なのは子供のへの影響。金銭的に精神的に。その未来に。

それ以外の本人や周囲の大人たちのことなどどうでもいい。身から出た錆。それ以上語ることは無い。離婚した本人たちが背負って生きていけばいい。迷惑をかけた全ての人の為に。

 

 

離婚についての具体的な話を聞いている割に、ポカンとしている早苗。

目の前の料理を食べながら聞いている早苗。

何度かスマホをチェックして、何やら返信していることまであった。

またしても違和感を感じた。だから言った。感じたことをそのままに。

 

「今日の話って結局何の話しなの?」

 

もういい時間だ。十年以上愛用している僕の腕時計は23時になろうとしていた。

会った時は神妙な雰囲気だった早苗の今は、4時間近くも経過して『普通』になっていた。まるでただ友達と食事をしにきた人のようだ。

 

確かに長い時間を使って言葉として他人に、自分の悩みを体外に発散し心が軽くなったからかもしれないし、さらには僕が共犯者じゃないってことを僕を見て理解できたからなのかもしれないし、本当のところは分からない。でも目の前にいる早苗はどこか軽やかに見えた。

 

「健吾の本心が知りたいの」

早苗はそう言って僕の目を見た。

三つ目の違和感だ。本心?本心ってなんだ?

 

 

今日僕に会い、現在の家庭の状態を伝え相談したことは健吾に伝える。だから近いうちに健吾から本心を聞いてほしいとのことだった。

健吾が今後どうするつもりなのか聞き出せってことんだろう。

現状をどのように捉えているのか気持ちを聞き出してほしいってことなんだろう。

とりあえず僕は早苗の申し出を、三つ目の違和感をそのように解釈することにした。

 

まぁ確かに現状の早苗と健吾は停滞している。感情や意地がぶつかり合い後にも先にも進めない状態。

僕にもあったからね。そんなときが。

 

 

 

 

ちょろちょろ頼み、ダラダラ食べて、ちびちび飲んだ会計は大したものじゃなくて。

見栄っ張りの僕は早苗がトイレに立ったすきに会計を済ませた。

 

 

申し訳なさそうにお礼を言ってくれた早苗は、なんだろ、、、時間帯のせいなのかとても艶っぽく見えて、一瞬友達の奥さんだってことを忘れそうになった。

 

階段を下りて店の外に出る。

目の前にはタクシーと代行車が並んでいる。駅前だというのにこの街は賑わいが無い。

ハザードランプの光が建物と僕たちを点滅させていた。

「こんな時間までごめんなさい」

そう言って早苗は僕とは反対方向へ去っていく。

歩道を歩く早苗には、一方通行と対行しているせいでヘッドライトが当たっている。

背中が黒く影になり体の輪郭が光の筋で浮かび上がっている。

停めているはずの駐車場への曲がり角を無視して直進していく早苗に対する四つ目の違和感はもう無視して僕は代行に声をかけた。

 

 

 

 

【妻編】おしまい

次は【夫編】第四話へつづく

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした【妻編】 第二話

徐々に話し始めた早苗。

穏やかだった口調も時間と共に崩れ始め、ときおり憎しみを込め、時には悲しさを含み、自分の身に起きた出来事を語り、被害者であることを訴え続けた。

 

 ※この話の続き

www.hontoje.com

 

 

「健吾ね、不倫してたんです。知ってた?」

早苗の烏龍茶のグラスには結露した雫が付いている。敷かれたコースターはまだ濡れていな。

飲み物が運ばれ互いに一口飲んで、話を促してまだほとんど時間は経過していない。

結露した雫が垂れる間もなくいきなり結論めいた話をしてきたのだ。

 

先ほど僕に向けてきたキツい目の意味の一つが分かった。

『共犯』

そう、僕は疑われていた。健吾と飲みに出かける仲だ。疑えばきりがない。

たとえばこうだ。

健吾は僕と飲みに行くと言って出かける。しかし実際は僕とは会っていない。連絡が取れなくなった場合のアリバイ工作として、早苗が僕に電話をよこしたとき、「また酔いつぶれた。一緒にいる。いまから連れて帰る」と口裏を合わせたり。

 

またはこうだ。

家族というものがありながら、恋に落ち不倫関係になってしまったことの相談を受けていたんじゃないのか。

 

 

女性という生き物はとにかく感がはたらく。恐ろしいほどに。

かつて結婚していた僕はその超能力とも思われる女性の感に驚愕し、ときには頭を下げ謝罪をした。何で分かるんだ!

些細な仕草や言葉や行動の変化を彼女たちは見ている。感じている。

 

しかし今回は残念なことに早苗の感は外れていた。僕は共犯者じゃない。

 

「マジで?そんなの知らないよ。本当に初めて知ったぞ」

 

 

早苗はびくともしない。想定の範囲内の返答だからだ。まぁたしかにこんな質問をされた一発目で、はい、知ってました!と快く答える人間はいないだろう。

 

 

僕の顔を正面に捉えながら早苗の話は続いた。

今からちょうど10年前。早苗と健吾に長女が産まれようとしているとき。健吾は不倫をしていた。要するに早苗のお腹に赤ちゃんがいるその最中ということだ。

妊娠中、健吾の行動が怪しくなった。まさかとは思ったものの、その行動はエスカレートし出産後間もなく問い詰めると健吾はあっさりと不倫の事実を認めた。

相手の女性と話し合いまた、健吾とも話し合った末、結婚生活を継続することを決めた。

しかし早苗にとってそれは、地獄の日々だった。

裏切られたという怒り。それが妊娠中だったという憤りと悲しみ。

いっそのこと離婚してしまえばどんなに楽だったか。

 

離婚を選択するという葛藤はいつまでも続いた。健吾に対する怒りや悲しみが、忘れようにも忘れられない『不倫』『裏切り』という事実が早苗の心と頭から消えることがなかったから。

 

 きっとこの時期だ。僕に何度か健吾の所在を聞く電話をよこしたのは。

まさかあの時、健吾たちにそんなことが起きていたなんて・・・

 

 

『全ては子供たちのため』

夫婦の再スタートを決めたとき、早苗は子供たちのことを一番に想い全てを水に流すつもりだった。自分さえ我慢すれば家庭は上手くいく。またあの平凡で幸せな日々を取り戻せる。そう思った。

しかし人間の感情とはそんなに簡単なものじゃない。自分の力で頭の中から記憶を消すことなど出来るわけがない。吹き上がる感情に蓋などできやしない。

健吾に対する想いはいつしか憎しみに変わった。

 

冷え込んだ夫婦関係は、次ぎにヒートアップする。

健吾の些細な言動が気にさわり、小さな失敗でさえ許すことができず、イライラを募らせた早苗は健吾に当たり散らすようになった。そして喧嘩になりその最後は必ずあの不倫の話をぶり返した。

 

不倫の話になると健吾は口を紡ぐ。

反論できるわけなど無いのだから。そうなった健吾を見ると早苗には更なる怒りが沸いてきて自分のコントロールを失うのだという。

 

 

全ては子供たちのため

 

 

早苗の話の合間あいまにこの言葉が登場した。

気持ちは分かる。痛いほどに。僕もその事でどれだけ悩んだか。苦しんだか。

『自分さえ我慢すれば』

早苗の口から出てきたそのとき、僕は泣きそうになった。自分さえ我慢すれば。

僕は何度このことを自分に言い聞かせてきたか。

 

 

 

 

喧嘩が絶えない日々が続いた。

怯える子供たちを目の前にしても早苗はヒートアップした感情を抑えることが出来なかった。

そんなあるときの喧嘩の最中。

両親が喧嘩している姿に耐えられなくなった4歳の長女が泣きながら「ごめんなさい。ごめんなさい。」そう言って止まらなくなった。

驚いた早苗がかけよりなだめたが幼い、幼すぎる長女の罪の無い謝罪はしばらく止むことはなかった。

喧嘩するお父さんとお母さんを何とかしようと、この場を何とか納めようと小さな子供が思い付いたのが、謝り続けることだったのかもしれない。

 

「全部俺が悪い。申し訳ない。」

 

健吾はそう言って家をを出ていった。

そのとき早苗はこう思ったという。

『死ねばいいのに』

自分でも驚いた。そんな感情を自分が健吾に対して思うとは。

早苗の中に自然に沸き上がってきたその感情を認識したとき『終わったな』と思ったらしい。

高校生のころから始まった早苗と健吾の物語は、あのキラキラしたドキドキしたあの日々や、愛しくて苦しくて胸が張り裂けそうだった気持ちが今、終わった。

 

 

その日から早苗と健吾の本当の地獄が始まる。

家の外では『仮面夫婦』

家の中では子供のことのみを共同で行う『家庭内別居』

会話など無い。子供と生活にまつわる事務的な伝達事項のみを残し、二人から会話が消えた。

 

 

 

お分かりだろうか。これは地獄である。

憎しみと怒りと嫌悪感だけが充満した一つ屋根の下。姿さえ目ざわりな他人と一緒に暮らすのだ。

 

 

学校行事でしかたなく連れ添うときには外部に対して笑顔で接し、しかし互いの腹の中はムカつきと憎しみで満タン状態。

行事を終えた帰路。車内ではまたあの沈黙が始まる。

 

 

「子供たちは?子供たちは大丈夫なのか?」

 

早苗の話は、あまりにもドロドロで、あまりにも悲惨で。

僕は生ゴミを思い出していた。

キッチンの流しの隅にある三角のネットが掛けられたやつ。

色んな食べ物の残骸が混ざり異臭を放つあの映像だ。

僕は早苗の話を聞きながら、楽しかったであろう思い出と現在の悲惨さがごちゃ混ぜになった早苗の感情を想像した。

まだ食べれるのに余ったからと廃棄した瞬間それは、生ごみに変わる。

早苗と健吾は一人の人生としては新鮮であるはずの時間を捨てている。それは瞬時に異臭を放つ生ごみに変わる。

 

 

 

思い出した映像のせいなのか、僕は少し気持ち悪くなっていた。そして一番の気がかりである子供たちのことを思った。

 

現在は小5と中2のはずだ。あの長女には兄がいる。

小さなころから両親の喧嘩ばかりを目にして生きてきた子供の精神的ダメージは、そんな環境で生きてきた僕にしか分からないだろう。

 

絶対に分からない。早苗も健吾も。

 

子供たちの状態を質問した僕への返答は無難なものだった。

「何とか元気にやってるよ」

 

 

確かに子供には親の大変さは分からない。しかし、でも親だって子供の気持ちなど分かるはずもない。『元気』なわけがない。

 

 

 

 

僕は離婚を選択した。自分で考えられる有りとあらゆるものを考え、調べ、そして覚悟を決めた。覚悟を決める思考と感情のほとんどを占めていたのは子供の気持ちと未来への責任のことだった。

 

 

いま早苗は何を思う?何を考え何を決める?

 

 

一通り話を終えた早苗の烏龍茶は二杯目の底をついていた。

早苗は、僕にとって右側。早苗にとっての左側にある窓を、その外を走る車を眺めている。

 

互いに三杯目になる飲み物を注文して僕は適当に並べられた食べ物をつまんだ。

f:id:mifuketa:20200702154345j:plain

 

「んで、どうするつもりなの?」

僕は分かりきった事を早苗に聞いた。答えなど分かっている。

ただ『離婚』という言葉を僕は早苗から、早苗の口から聞きたかった。

他人の僕から切り出す言葉じゃない。アドバイスするほど軽い意味でもない。

いつだって人生の分岐点は自分で決めるものなのだから。

 

 

「健吾のことが好きなの」

 

 

 

 

早苗の口から出てきた返答は僕の予想したものじゃなかった。。。

僕は何も『分かりきって』はいなかった。

 

 

づづく

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

墓場まで持っていく話を聞いたら吐き気がした【妻編】 第一話

僕はきっと稀な体験をした。

夫婦二人のどちらもからも同じ内容の話を聞いたのだから。

妻、早苗(仮名)。夫、健吾(仮名)。どちらも僕の友達だ。

 

僕に持ち掛けられた『相談』はやはり離婚についてだったし、経験者の僕はきっと二人にとって、各々にとって心強い味方だと思ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

着信に気づいたのは仕事も終わった夕方近く。

『夕方』とは何時を指し示す言葉なのだろう。さらには『近く』と付属されている。自分で書いておきながら意味不明ではあるが、それこそ、着信に気づいた僕は『?』と思ったし意味不明であった。

 

早苗(仮名)と知りあったのは高校の時。同じ高校だったのではない。健吾の彼女として紹介されたのがきっかけだ。要するに『友達の彼女』だった。

僕と健吾は大人になってからも親しくて、よく酒を飲んだ。早苗が同席するときもしばしばで、必然的に知り合いから友達みたいになったのだ。

健吾は酒に弱くて、だから彼女である早苗は心配した。連絡が付かなくなることもあるのだから。連絡が付かないのもそうだが、酔いつぶれた健吾は、友達の肩を借りて早苗の待つアパートに帰ってくるときもあり、飲みに出かける健吾への心配は、さらなる心配を生む。

いつだったか「迷惑かけるの申し訳ないから、何かあったら連絡して」と早苗が携帯の番号を教えてくれた。

仕事のストレスを僕にぶちまけた健吾は酔いつぶれ、僕がアパートまで送っていったときのこと。申し訳なさそうにしている早苗と携帯番号を交換した。

 

時を経て『友達の彼女』は『友達の奥さん』になった。

僕とは違い、健吾夫妻は一般的な年齢で結婚し、子供を授かった。

健吾と二人して遊んでいたころとは環境が違う。お互い家庭を持った。

二人して遊ぶことが少なくなり、そしてほぼ無くなった。

今では一年に一度か二度酒の席を共にするぐらい。

 

 

 

当たり前だが、早苗から電話が入ることはほとんどない。二人が結婚する前も、その後も。

そういえばある一時期だけ、健吾の所在を確認する電話が何度かあったな。

 

今回の着信はそれ以来だ。数年前以来。

何かあったのかもしれないと不吉な予感を感じながら僕は久しぶりに早苗に電話した。

病気か?怪我か?まさかそれ以上ってことは無いだろ。

 

「もしもし」と静かに電話に出た早苗。

スタバやファミレスで話すには時間が足りないと言うのだ。とにかく会って話を聞いてほしいというのだ。

僕にも経験がある。ファミレスなどで長話しとなるとせいぜい2時間ぐらいが限界。注文した品をたいらげて飲み物を注文しても、長居するには勇気がいる。どんどんと入れ替わる客。待っている客がいるのに、大した注文もしない客が長居するのは店の迷惑となるし、そのような目線をもらったことがある。

僕はチェーン店の居酒屋を指定した。居酒屋なら問題ない。ちょこちょこと注文し、ダラダラと食べ、ちょびちょびと飲む。そんな場所なんだから。時間を気にせず居座ることができる。

 

その電話から数日後、僕と早苗は初めて二人きりで会った。

バラバラに来て別々の駐車場に停め店の前で待ち合わせをした。何が言いたいかというと、普通に友達としてどうどうと待ち合わせをしたということ。

長話しを聞く絶好の場所は他にもある。『車中』だ。どこかの公園や海岸などがそれ。車を駐車できる場所であればどこだっていい。道の駅なんて最高だろう。トイレがある。絶好の長話しステーションだ。

でもさ、考えてみてよ。男女が車の中で二人きり。おかしいでしょ?怪しいでしょ?

いつ誰がどこで見てるか分からない。便利な世の中だもの、SNSで拡散なんてことになったら、善意の僕に悪意の目が向く。

 

現代の世の中は、人の相談を聞くにも一苦労ってこと。

色々気を使い居酒屋の指定をしたのは僕だし、きっとお酒を飲むのも僕だけで。だからお勘定は僕。他人の相談事を聞くのにも経費が掛かるってわけ。

 

 

 

 

平日の午後7時。空はまだ明るく、車通りの多い道沿いにあるそのチェー店は、系列のお店を併設させて入口が三つもある。

大学生のバイトらしき呼び込みが声を掛けてくる。

早苗より先に付いた僕は、店先に出されているメニューを見ていた。

「お好みのものはありますか?」

何でもいいのだ。目的は食に無い。

断る仕草の意味を込め、ちょこんとしたお辞儀をして、バイト君を退けた時、早苗はやってきた。

久しぶりに見る早苗は年齢より若く見えた。

女性の服装を表現する言葉を僕は持ち合わせていないが、スキニージーンズにカットソーを着て、その上に裾が長めのシャツを合わせている。赤いオールスターのスニーカーがアクセントとなり女性らしさを引き立てていた。

 

 

「すいません」

会うなりそう言って早苗は頭を下げる。

ここではなんだからと、どの店にするか早苗に聞くも、答えは予想通りで「まかせます」とのこと。

何も考えず自分の体に一番近い入口へ向かった。後ろではバイト君の「ありがとうございます。ごゆっくり」の声が聞こえた。

f:id:mifuketa:20200701150905j:plain

 

 

テーブル席に通された僕たち。

直ぐにお通しが配置され、おしぼりを手渡される。

「とりあえずビール」と店員に注文し早苗を目で促す。

烏龍茶を頼んだ後、早苗は下を向いた。膝の上に抱えたバッグを見つめている。

 

 

絶対離婚の話だなと思った。この重苦しい雰囲気は他に考えようがない。

とりあえず僕は早苗が話し始めるまでじっとしていようと思った。

席の右側には窓がある。建物の二階にあるこの店の窓からは、大通りを一方通行で過ぎ去る車が見える。駅に繋がるこの道は、4車線の一方通行。

薄暗くなりテールランプの赤が目立ち始める時間だ。夜が来る。

 

アラフォー男女が向かい合い座っている。一方の女性が俯き動かない。

さて、飲み物を持ってきた店員は僕らをどのように感じるのだろう。

『訳あり』と思うのかな。それとも何も思わないのだろうか。人の感じ方はそれぞれであり、だからこそ良からぬ『誤解』が生まれる。

 

早苗に会うことになったとき僕は『良からぬ誤解』を一番に気にした。だからこそ、あえて僕はどうどうとオープンに人目に付きやすい店を選んだ。なんなら知り合いにばったり会って声でもかけてもらったほうがよほど気が楽だったかもしれない。

「いや、実はさ・・・・」とか小声で言って正当な理由を世界に発したかった。

 

 

最近テレビでは不倫の話が流れていた。超美人妻を裏切ったお笑い芸人の話題だ。

そんな世の中にありちょっと僕は敏感になっていたのかもしれない。

 

 

店員が飲み物を運んできた。

さてどうするべきか。まさか『乾杯』ではないだろう、どうみても。

目の前に飲み物が置かれても早苗は動かない。

 

マジかよ・・・俺から切り出すのかよ・・・・

 

ちょっとだけ、本当にちょっとだけイラっとした。話があると言ったのは早苗のほうで、僕は聞き役。話してくれなければ聞きようがない。

 

 

「まずさ、一口飲んで落ち着こうよ」

そんな風に声を掛けた。

コクリと頷いた早苗は烏龍茶を一口飲んだ。それを見て僕はビールを流し込む。

中ジョッキを半分飲みほし、その間に僕は覚悟を決めた。

 

いいよ。分かったよ。聞くよ。聞いてやろうじゃないの。

 

 

「何があったの?話してみてよ」そう早苗に声を掛けた。

 

 

「もう家庭がボロボロなんです。どうしてこんなことになったんだろ・・・」

 

敬語を混在させて話した早苗。僕との距離感を見事に表している。

昔は仲よく話していたが、最近ではほとんど会うことが無かった。時を経て距離が遠くなったのだ。

 

けっこう仲が良かったつもりだったから、早苗の『です。』に違和感と寂しさを感じた。友達の奥さんと仲がいいってことは、家族ぐるみってことで、僕が彼らにとって特別な存在であるかのように感じていた。

 

まあ実際、このような場面にお呼ばれされるのだから、僕が『特別な存在』であることは実証されたようなものだが。

 

 

「今は家庭内別居の状態でね、そろそろ先のことを考えないと子供たちが可愛そうで」

 

早苗は何故だかキツい目を僕に向けた。

それは何らかの覚悟をした目にも見えたし、迷っている自分に活を入れているようにも見え、ここから話が続くことを確信した瞬間でもあった。

 

 

この日、僕は4時間にも及ぶ夫婦の物語を聞くことになる。

そしてまた僕は『結婚』に落胆することになる。

 

づづく

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

おめでとう、おめでとう、おめでとう。そしてありがとう。

僕ら仲良し6人組の一人におめでたいことが起きた。

仲良しと書いて『親友』とも言う仲間にだ。

6人全て同じ年齢であるから、今年43歳を迎える。そのうちの一人が遂にお父さんになった!

 

f:id:mifuketa:20200320133336p:plain

 

 おめでとう!

結婚してからしばらくたっても妊娠の話がなかったから、最近では冗談ですら話題に上がらなくなってたね。

 

おめでとう!

結婚10年目で遂に妊娠。自分のことのように嬉しかった。きっとみんなも同じはずだ。

 

おめでとう!

奥さんは一つ年下。高齢出産だよね。妊娠初期に出血して緊急入院したとの話を聞いてから、簡単に「順調か?」なんて聞くこともできなくて。

無事に産まれて、本当に良かった!

 

 

 

コロナが無ければ、飛んでいきたいこころだけど今はやめとくね。どうやら面会も制限されてるようだし。

それにしても奥さん、本当に頑張った。不安と期待を内に秘めて痛みに耐えてよく頑張った。

奥さん想いで優しい春樹のことだから、万全の対応はするの分かってたけど、お節介なラインんしてごめん。

f:id:mifuketa:20200320134154p:plain

恒例のバーベキューのとき、お前がどんな顔して子供を抱いてくるのか楽しみでしかたないよ。

大昔、一緒になってやんちゃしてた春樹が遂にお父さんか。しかも女の子だなんて。笑っちゃうよ。むかし泣かせた女の親の気持ちを思いしれ(笑)

今の僕の、女子高生の父親の心配を体感してくれ(笑)

いやいや僕は実に愉快だよ。

 

 

 

 

実はさ、本当はさ、今すぐにでもそっちに行きたい。

実は春樹に尋ねたいことがあるんだ。

 

あの時僕はどんな顔してた?

ほら、僕に第一子が産まれたときだよ。僕、どんな顔してた?

 

21歳の若造がデキ婚して、自分だって、ついさっきまで同じ姿だったはずの赤ちゃん抱いてた僕はどんな顔してた?

 

春樹から無事に子供が産まれたと知らせが来た時、嬉しさの後からこの疑問が同時に浮き上がってきたんだ。

 

デキ婚して長男が産まれて、次は長女が産まれて。そんな彼らも大きくなって。でも僕、離婚しちゃって。シングルファザーも板についてきた今だからやっと当時の自分を冷静に振り返ることができるようになった。

 

第一子が産まれてからずっと、いや、結婚してからずっと僕はパニックだった。冷静じゃなかった。仕事と家庭と子育てを、周囲の冷やかしの目を浴びながら必死に生きてた。

当時は今よりデキ婚に冷ややかだった。子供が子供を育ててるって、そんなニヤついた視線をいつも感じてた。僕は『普通』の父親とはみなされてなかった。

立派な親になろうと思った。立派にならなきゃダメなんだと思った。じゃなきゃあのニヤついた視線が今度は子供に向けられてしまう。

 

なぜだか当時は、他の家の父親たちの背中が、大きく見えていた。強そうに見えていた。

どこにいってもいつの年代でも僕は、一番若い父親で。

とにかく、とにかく必死だったんだ。他の家の父親に負けないように。

ずっと、ずっと必死だったんだ。周囲が見えないぐらいに。

 

 

 

 

 

僕の時、出産祝いを頂いたよね。ちゃんとお返ししたっけ?

他の三人に子供が産まれたとき、出産祝い渡したっけ?多分、渡してないような気がする。言い訳だけど、給料安くて貧乏だったんだ。これ本当だから。

 

 

なんかみんなにも申し訳ない気がしてきた。きっとお前らなら笑って許してくれてるだろうけど。とりあえず、全てをひっくるめて、みんない言いたい。

「ありがとう」

 

離婚して4年。今だからやっと振り返れる過去。

今は遂に本当の自分に戻れたような気がする。「色々あったな」って受け止められる。

 

 

 

 

春樹。今どんな顔して子供抱いてる?

普通のお父さんはどんな顔して子供抱くんだ?

出産祝い用意しておくから、なるべく早く顔見せろよ。

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

許される不倫の形があるとしたら  【実録W不倫物語】

『不倫』は決して許されるものではありません。自分を含め周囲を巻き込み、全ての形を、積み上げてきた人々との時間を関係を破壊しかねない危険な行為。他人の心を平気で傷つける行為。

そうです。不倫とは決して許されない『行為』なのです。

ちなみに『行為』とは辞書で調べると、『ある意思をもってするおこない』『思慮・選択により意識的に行われる行動』だそうです。

 

これから書く内容の出所は決して詮索しないようにお願いします。現在進行形のW不倫ですから。

f:id:mifuketa:20200229194258j:plain

その男女は、十年前に出会いました。お互いの子供が通う学校のPTA活動の場で。

初めのうちは○○君のお母さん、○○ちゃんのお父さんという感じで、どこにでもある父兄同士の集まりでした。

PTAは父兄参加型の活動です。様々な部門があり、それぞれの部門で活動します。

一般的に『広報』を発行する部門は避けられがち。単発のイベントである運動会や体育祭とは違い、一年にわたって仕事があり何度も招集されるからです。校内活動やPTA活動をまとめた冊子を年に数回にわたって発行します。その都度、先生や生徒への原稿の依頼。使用する写真の依頼。校正や印刷の手配。何かとやることが多く、役割分担を決め各自の責任をはたし、会合を開いて発行までのまとめを行う。学校を通してPTAが発行する公式の刊行物であり現物として世に出回る分、責任も重大です。

要するに二人は必然的に接触頻度が多くなりました。

 

 

人は突然恋に落ちます。そこには年齢も環境も関係ありません。男と女が出会った時、同じ時間を過ごしていく中で互いの心に何かが芽生え、大きくなったその塊はいつしか欲求を伴いコントロール不能になる。

 人間とは不思議なもので、言葉を交わさずとも目を合わせるだけで分かるときがある。感じる時がある。二人の間に流れる空気が同じになるというか心が共鳴していることを。

 その男女は、いや、○○君のお母さんと○○ちゃんのお父さんは共鳴してしまった。数十枚にもおよぶ原稿を二人きりで校正している作業中に。

 

 

f:id:mifuketa:20191218184727j:plain

 

「ふとした瞬間に目が合い時間が止まった。そのままどのぐらい見つめ合っていたのか分からない」

○○ちゃんのお父さんこと和則(仮名)はビールジョッキのとってを握り一口も飲まないまま、時にはうつむき、時には目を見て僕にこの話をした。ビールが運ばれてきてからすでに1時間近く経過していたそのジョッキは結露した雫が蒸発して消えてしまっている。

和則は僕に言います。互いに強く想い合っていると。PTAの活動を通して交わした会話やその時の空気。視線やつばを飲み込む音。具体的に気持ちを伝えあったわけではないけれども、そんなことはできるわけがないけど僕たちは同じ気持ちなのだと。

 

ほとんどの人が嫌がるこの部門で、愚痴の一つもこぼさず真剣に丁寧に、ちゃんと読んでくれる人がいるかもしれないからと、一生懸命作業する彼女のその人柄に心惹かれたのだと。

 

 

結論から言っておきます。この二人には何もない。何事も起こっていない。何もしていないのです。

当時交わした言葉はPTAの事と子供の事だけ。もちろん約束して外で会うなんてもっての外。しかし人生とは面白いものですね。偶然が必然だったりすることがある。このことを人は『運命』とよんだりするのでしょうか。

 

 

 

和則が属したPTAは当然卒業と共に活動を終えます。卒業と同時に活動を終える学年の時に出会ったとだけ説明を附加しておきます。その後二人が単独接触したのはたった二回だけ。

一度目は卒業後すぐのころ。日課だった夜の散歩で通る大きな橋の上。湾曲した橋の歩道に規則的に生えた街灯に照らされて、前方から女性が歩いてきた。輪郭が視認できる距離になると和則はすぐに分かった。彼女だということが。驚きと動揺を隠して、このままただすれ違ってしまうかもしれないという恐怖にも似た落胆が膨らむ心を抑えながら歩みを進めた。互いに顔が見える距離になったとき彼女が少しだけ笑った。少しだけ。何も言わないまま二人は橋の欄干に並んだ。爆発しそうな気持を抑えて和則はゆっくりと話しかけた。

「元気ですか?」「はい」「俺はここから見える開けた空が好きなんです」「わたしもです」

この時二人が交わした言葉はこれだけ。欄干に並んだ時間も本当にわずかだったらしい。ただ一つだけこの他に和則は伝えた。離れ際、手を顎の下にもっていき『幸せに』と。その動作は手話の先生である彼女にしっかり伝わった。大きく笑顔を作った彼女も同じ動作をよこしてくれた。

そして二度目が昨日。この話をしてくれた前日だ。一度目からもう十年経過している。和則が話す二人の間に流れる空気感を僕は表現できない。言葉と表情と抑揚を織り交ぜながら話す和則に僕は引き込まれた。これを文章にして表現できたなら僕は小説家としてデビューできると思う。

昨日の二人の一分にも満たない接触の最後。周囲からみれば知り合い同士のたわいのない会話に見えたはずの別れ際。想いが伝搬しているであろう手話が切なかった。

 

 

補足しておく。この二人はPTAで知り合った。子供が同じ学校だったから。同じ学区なのである。近くなのである。会おうと思えばいつでも会える。その気になれば連絡だって取合える。単独接触は二回だけだが、すれ違っている。姿を見ている。それは車ですれ違ったり、なんなら最寄りのスーパーで。駅で、コンビニで、デパートで。出会いから十年も経過している。『たまたま』のすれ違いは幾度となくあっただろう。

 でも二人は関わらない。昔のPTA仲間に会釈をするだけ。

 

 

 

僕ね、和則の話を聞いたとき最初は片思いの話だと感じた。しかもちょっと危険なやつ。既婚男性が勝手な妄想をして相手の気持ちを想像し勘違いを何度も膨らませて自分の都合のいいように解釈してる。そんな話だと思った。だからそう言ってみた、和則に。怒るかと思ったけど言ってみた。そしたら和則が「自分だってそう思いたい。でも違うんだ・・・」テーブルの一点を見つめてため息みたいな声でそう言った。そこには何の危険性も感じなくて、むしろそんな事実に落胆しているような悲しい響きだった。自分の気持ちを、起きている出来事を悔やんでる訳でもなくでも、肯定しているわけでもない。人生の何かの部分を諦めた和則の姿が僕の目の前にあった。

 

 

 

もし許される不倫の形があるのだとしたら、これだと思う。何も壊さず何も傷つけず、ただひたすら自分たちだけが苦しい。

彼らは行動していない。『行為』を行っていない。

人を好きになるというのは事故のようなもので、ある意味奇跡的なこと。でも僕たちは人間であり理性を持ち合わせ現実社会を生きている。『不倫』という行為の先にある破滅を破壊力を理屈として理解している。そして何より僕は和則から人を好きになるということの意味を改めて考えさせられた。

 

和則は自分を第一優先に考えていない。勢いに任せてどうにでもできる関係なのに行動しないのは単に自分以外の人の幸せを考えているからに他ならない。自分の感情を満たすために周囲を巻き込んだりしない。それは何より彼女の為でもある。

和則は良く理解していると思う。できていると思う。リスクが怖くてビビっているのではない。

好きになった人の幸せが何であるかを十分に理解している。人を好きになってしまったことの責任を十二分に理解している。

 

 

 

和則の気持ちが本物なのか僕には分からない。和則が話す彼女の話が事実なのかもわからない。でも和則の身悶える日々が終わるのはまだしばらく先になるだろう。

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

別れた相手に未練があるってこういうことなんだ・・・【離婚後に気を付けるべき事】

三組に一組が離婚する世の中。僕も立派なバツイチですし、周囲にも普通にバツイチがいます。『普通』と表現していいのか分かりませんが既に離婚は珍しい決断ではなくなったようです。

そんな、珍しくもないバツイチどうしで話した時のことを紹介します。

 

f:id:mifuketa:20200224071207j:plain

 

僕より年下の石黒は二年前に離婚しました。子供もいないのにまだ元妻との繋がりは途絶えていないようです。ごくまれにではありますが、ラインでのやり取りがあるようです。そんな彼に最近ラインが来ました。

「私の友達に手を出さないで!!」

 

 

彼には思い当たる節があります。まだ結婚していたときに、奥さんの友達と知り合いになりました。奥さんの友達が家に遊びに来たりするのですから、知り合いになるのは当然ですよね。奥さんの友達ですから女性です。加奈子(仮名)といいます。

離婚してから加奈子とばったり遭遇。石黒は気まづかったようですが、無視することなく挨拶をし言葉を交わしました。そしたら、加奈子も離婚してしまったそうで、何の気なしにラインを交換。

 

それをきっかけにバツイチ同士の友達関係になりました。あくまでも友達です。

僕は気持ち分かるな。バツイチって何かと不安。仲間が欲しいのです。三組に二組は普通の夫婦なわけですから、バツイチの僕らは少数派です。

 

 

ここから先の内容に賛否が発生すると思うので、是非とも読み進めて頂きたい。

 

 

加奈子と元妻はかなりの疎遠状態ではあったものの、友達であることには変わりありませんでした。近々での連絡は取合っていなかったそうです。家庭を持つと、男性も女性も自分の友達とは疎遠になりがちですよね。

不思議なことにどこから伝わったのか、加奈子と石黒が友達付き合いをしていることを元妻が知ります。その結果、元妻は加奈子との友達関係を解消。そして石黒にあのライン「私の友達に手を出さないで!!」に繋がりました。

 

元妻いわく『私の友達と仲良くなるなんて気持ち悪い。自分だったら絶対にしない』『加奈子も私の元旦那と気安くライン交換するなんて信じられない』大まかにまとめるとこの二つの内容の苦情が石黒に来ました。

 

補足しておきますが、石黒と元妻は何かトラブルがあって離婚したのではなく、ざっくり言えば性格の不一致による離婚であり、優しく表現すると『卒業』的離婚でした。芸能人などによくあるパターンのやつです。切り出したのは石黒の方でした。

 

 

 

 

僕はいまいち理解できません。元妻の対応が。それは石黒も同じ。

離婚したのですから誰と何をしようと石黒の勝手です。元妻に管理される筋合いはありません。もう他人同士なのですから。

 

それからもう一つ。加奈子を本当に友達だと思っているなら、「石黒はこんな悪い所があるから気を付けて」などと注意を促したり「交際に発展させるのはお勧めしないよ」などと第二の自分を生まないように加奈子をサポートしてあげるべきじゃないのかと思うのです。そこから先は加奈子の判断を尊重してあげるべきなのではないでしょうか。

 

 

結婚離婚を抜きにして、たしかに自分の元彼女と友達が付き合い始めたら、何か変な気分にはなりますが、それにしたって僕が何か言う立場には無いと思います。二人がいいならそれでいい。僕が元彼女の色んなことを知っていても、僕の友達がそれでもいいからお付き合いするのです。ある意味素敵なことだとも思います。まぁこの例えは経験が無いので想像でしかありませんが。しかし間違った考えではないですよね?

 

結婚にしろ、お付き合いにしろ『独占してます。されてます。』という契りを交わした状態です。特に結婚指輪には『あなたの専属のセックスパートナーです』の意味があるそうです。しかし一旦その関係が解消されたならもう指示を受ける筋合いは無いと思います。

 

 

石黒の話を聞きながら、思いました。元妻は離婚を後悔していると。まだ石黒に未練があるのだと。もしかしたら『失ってから気づいた価値』みたいなことなのかもしれません。だから嫉妬したのです。加奈子を羨ましく思ったのです。お付き合いに発展してほしくないのです。価値あるものを友達に奪われたくないのです。

 

 

僕もバツイチなので、逆パターンで同じことが僕に起きたら。元妻が僕の身近な人とお付き合いすることになったら。『ご愁傷様』と思います。一言注意を促します。それでも交際を始めたら、温かく見守れます。

 

 

別れた相手に未練を残すことができる石黒は、この先も大丈夫だと思いました。

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。