雨のち いずれ晴れ

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許される不倫の形があるとしたら  【実録W不倫物語】

『不倫』は決して許されるものではありません。自分を含め周囲を巻き込み、全ての形を、積み上げてきた人々との時間を関係を破壊しかねない危険な行為。他人の心を平気で傷つける行為。

そうです。不倫とは決して許されない『行為』なのです。

ちなみに『行為』とは辞書で調べると、『ある意思をもってするおこない』『思慮・選択により意識的に行われる行動』だそうです。

 

これから書く内容の出所は決して詮索しないようにお願いします。現在進行形のW不倫ですから。

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その男女は、十年前に出会いました。お互いの子供が通う学校のPTA活動の場で。

初めのうちは○○君のお母さん、○○ちゃんのお父さんという感じで、どこにでもある父兄同士の集まりでした。

PTAは父兄参加型の活動です。様々な部門があり、それぞれの部門で活動します。

一般的に『広報』を発行する部門は避けられがち。単発のイベントである運動会や体育祭とは違い、一年にわたって仕事があり何度も招集されるからです。校内活動やPTA活動をまとめた冊子を年に数回にわたって発行します。その都度、先生や生徒への原稿の依頼。使用する写真の依頼。校正や印刷の手配。何かとやることが多く、役割分担を決め各自の責任をはたし、会合を開いて発行までのまとめを行う。学校を通してPTAが発行する公式の刊行物であり現物として世に出回る分、責任も重大です。

要するに二人は必然的に接触頻度が多くなりました。

 

 

人は突然恋に落ちます。そこには年齢も環境も関係ありません。男と女が出会った時、同じ時間を過ごしていく中で互いの心に何かが芽生え、大きくなったその塊はいつしか欲求を伴いコントロール不能になる。

 人間とは不思議なもので、言葉を交わさずとも目を合わせるだけで分かるときがある。感じる時がある。二人の間に流れる空気が同じになるというか心が共鳴していることを。

 その男女は、いや、○○君のお母さんと○○ちゃんのお父さんは共鳴してしまった。数十枚にもおよぶ原稿を二人きりで校正している作業中に。

 

 

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「ふとした瞬間に目が合い時間が止まった。そのままどのぐらい見つめ合っていたのか分からない」

○○ちゃんのお父さんこと和則(仮名)はビールジョッキのとってを握り一口も飲まないまま、時にはうつむき、時には目を見て僕にこの話をした。ビールが運ばれてきてからすでに1時間近く経過していたそのジョッキは結露した雫が蒸発して消えてしまっている。

和則は僕に言います。互いに強く想い合っていると。PTAの活動を通して交わした会話やその時の空気。視線やつばを飲み込む音。具体的に気持ちを伝えあったわけではないけれども、そんなことはできるわけがないけど僕たちは同じ気持ちなのだと。

 

ほとんどの人が嫌がるこの部門で、愚痴の一つもこぼさず真剣に丁寧に、ちゃんと読んでくれる人がいるかもしれないからと、一生懸命作業する彼女のその人柄に心惹かれたのだと。

 

 

結論から言っておきます。この二人には何もない。何事も起こっていない。何もしていないのです。

当時交わした言葉はPTAの事と子供の事だけ。もちろん約束して外で会うなんてもっての外。しかし人生とは面白いものですね。偶然が必然だったりすることがある。このことを人は『運命』とよんだりするのでしょうか。

 

 

 

和則が属したPTAは当然卒業と共に活動を終えます。卒業と同時に活動を終える学年の時に出会ったとだけ説明を附加しておきます。その後二人が単独接触したのはたった二回だけ。

一度目は卒業後すぐのころ。日課だった夜の散歩で通る大きな橋の上。湾曲した橋の歩道に規則的に生えた街灯に照らされて、前方から女性が歩いてきた。輪郭が視認できる距離になると和則はすぐに分かった。彼女だということが。驚きと動揺を隠して、このままただすれ違ってしまうかもしれないという恐怖にも似た落胆が膨らむ心を抑えながら歩みを進めた。互いに顔が見える距離になったとき彼女が少しだけ笑った。少しだけ。何も言わないまま二人は橋の欄干に並んだ。爆発しそうな気持を抑えて和則はゆっくりと話しかけた。

「元気ですか?」「はい」「俺はここから見える開けた空が好きなんです」「わたしもです」

この時二人が交わした言葉はこれだけ。欄干に並んだ時間も本当にわずかだったらしい。ただ一つだけこの他に和則は伝えた。離れ際、手を顎の下にもっていき『幸せに』と。その動作は手話の先生である彼女にしっかり伝わった。大きく笑顔を作った彼女も同じ動作をよこしてくれた。

そして二度目が昨日。この話をしてくれた前日だ。一度目からもう十年経過している。和則が話す二人の間に流れる空気感を僕は表現できない。言葉と表情と抑揚を織り交ぜながら話す和則に僕は引き込まれた。これを文章にして表現できたなら僕は小説家としてデビューできると思う。

昨日の二人の一分にも満たない接触の最後。周囲からみれば知り合い同士のたわいのない会話に見えたはずの別れ際。想いが伝搬しているであろう手話が切なかった。

 

 

補足しておく。この二人はPTAで知り合った。子供が同じ学校だったから。同じ学区なのである。近くなのである。会おうと思えばいつでも会える。その気になれば連絡だって取合える。単独接触は二回だけだが、すれ違っている。姿を見ている。それは車ですれ違ったり、なんなら最寄りのスーパーで。駅で、コンビニで、デパートで。出会いから十年も経過している。『たまたま』のすれ違いは幾度となくあっただろう。

 でも二人は関わらない。昔のPTA仲間に会釈をするだけ。

 

 

 

僕ね、和則の話を聞いたとき最初は片思いの話だと感じた。しかもちょっと危険なやつ。既婚男性が勝手な妄想をして相手の気持ちを想像し勘違いを何度も膨らませて自分の都合のいいように解釈してる。そんな話だと思った。だからそう言ってみた、和則に。怒るかと思ったけど言ってみた。そしたら和則が「自分だってそう思いたい。でも違うんだ・・・」テーブルの一点を見つめてため息みたいな声でそう言った。そこには何の危険性も感じなくて、むしろそんな事実に落胆しているような悲しい響きだった。自分の気持ちを、起きている出来事を悔やんでる訳でもなくでも、肯定しているわけでもない。人生の何かの部分を諦めた和則の姿が僕の目の前にあった。

 

 

 

もし許される不倫の形があるのだとしたら、これだと思う。何も壊さず何も傷つけず、ただひたすら自分たちだけが苦しい。

彼らは行動していない。『行為』を行っていない。

人を好きになるというのは事故のようなもので、ある意味奇跡的なこと。でも僕たちは人間であり理性を持ち合わせ現実社会を生きている。『不倫』という行為の先にある破滅を破壊力を理屈として理解している。そして何より僕は和則から人を好きになるということの意味を改めて考えさせられた。

 

和則は自分を第一優先に考えていない。勢いに任せてどうにでもできる関係なのに行動しないのは単に自分以外の人の幸せを考えているからに他ならない。自分の感情を満たすために周囲を巻き込んだりしない。それは何より彼女の為でもある。

和則は良く理解していると思う。できていると思う。リスクが怖くてビビっているのではない。

好きになった人の幸せが何であるかを十分に理解している。人を好きになってしまったことの責任を十二分に理解している。

 

 

 

和則の気持ちが本物なのか僕には分からない。和則が話す彼女の話が事実なのかもわからない。でも和則の身悶える日々が終わるのはまだしばらく先になるだろう。

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。