たしか10年ぐらい前に購入したはずだ。
ボタンがキツイ。引っ込めて何とか閉じると横に深いシワが入って、縛られたハムのようになってしまう。そんなスーツの状態なのだ。ジャケットがね。
年に数回しかまとうことなのいスーツを新調するつもりはない。もったいない。
しかたないから痩せることにする。スーツが小さくなったのではなく、僕が大きくなったのだから。
10年前と比べると僕の生活はずいぶん裕福になったものだ。100万円の車が400万円になった。毎週一度は飲みにでて、月に一度は一泊旅行。スーパーでは値段を見ないで買い物するようになった。
いつの間にかこんな自分になっていた。
あんなにお金に苦労していたのに。
もうこれで十分だ。そう思う。
65インチの有機ELテレビが欲しい。40万だった。そんな大金は出せない。
給料がもう3万増えてくれれば、年下たちを飲みに連れていけるのに。
年に一度は遠出の旅行に行きたい。現状では無理だ。
もっとコンスタントに貯蓄したい。不可能だ。
『慣れ』とは怖いものだ。今の自分の幸せさを忘れてしまう。当たり前だと思ってしまう。
金が欲しいという思いは、向上心ではなく『欲』なのだと思う。
今の僕は10年前に憧れていた生活をしている
想定していた通り離婚して、でも新しく彼女もできて。子供たちとも同居していて毎日が賑やかで。
これ以上何を望む事があるのか。
今の幸せを噛み締めよう。大切にしよう。足りない物を数えるのはよそう。
誰が言っていた。
お金の量は大人の通信簿だそうだ。
じゃあ僕は5段階評価のどこにいるのだろうか。どうでもいいし、知りたくもない。
ちゃんと僕は幸せなのだから。
少しでも誰かの心に響けたら!
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。