雨のち いずれ晴れ

ホントは寂しがりやのシングルファザーが叫ぶ! 誰かに届け!誰かに響け!!

夏の裏側で

世間では甲子園予選の熱戦が繰り広げられている。

この時期僕は決まって思い出す。暑い夏の裏側で起こった出来事を。

 

 

 

今回は30年近く前の話をしてみようと思う。

僕が高校二年生だったころの話だ。

 

 

 

9回の裏。僕たちの攻撃。点数は9対5で負けていた。

僕たちチームの最後の攻撃が始まる。

諦めも期待もなかった。負けるとも勝つとも思わなかった。試合が終わったらはっきりする。この時はただ事の成り行きを見守るしかなかった。

両校の学校応援。ブラスバンドの音がぶつかり合う。俄然音が大きいのは僕たちの方。

三年生の引退が間近に迫った切迫感。高校まで野球を続けてきた先輩の引退が目の前に迫っている。自分の学校の敗退を阻止すべくブラスバンドのけたたましい音がグラウンドに鳴り響いていた。

 

 

肝心な試合はというと、ヒットを打ったりフォアボールをもらったり、タイムリーが出たり。

気づくと9回の裏2アウト。ランナー1・3塁。点数は9対8の1点差まで迫り、打席には僕が立っていた。

 

ブラスバンドから『必殺仕事人』のフォーンが立ち上る。ここぞ!というときに演奏されるとっておきの応援歌。

「ここで打ったらヒーローだぞ!!ヒーローだぞ!!」

ベンチから必死の声が聞こえる。

簡単に2ストライクと追い込まれた。ランナーとして3塁にいたキャプテンもたまらず僕に激を飛ばす。

相手ピッチャーの緊張が感じられる。向こうも必至だ。

 

2ストライク2ボール。

次が勝負だと思った。

自然と顔が空を見上げ、ちょっとだけ神に祈った。

 

カキーンーー!といい音が響き、僕の放った打球はレフト前にきれいな直線を描いて落ちた。

湧き上がる歓声。絶叫するベンチ。あのみんなの喜びようは一生忘れない。

ベンチからの声援の通り僕は、ヒーローになった。

 

今思い出しても鳥肌ものだ。

 

結果は9対10で僕たちのチームがサヨナラ勝ち。同点タイムリーを放った僕のコメントは写真と共に翌日の新聞に載り、僕に無関心な両親をも喜ばせた。

 

 

この喜びの裏側で僕の心は沈んでいた。

暑い熱い夏の思い出はこのことではない。

 

 

 

この試合の前日僕は、宿舎からとある電話をかけた。

好きだった女性へ。小学校5年生から高校2年生までの間、ずっと片思いだった。

 

「明日の試合で勝ったら付き合ってほしい」

 

長電話の末、話の流れの中で伝えた僕の想い。

別に僕が引退するわけじゃないし、彼女にとって何か特別な意味のある試合でもない。

宿舎の公衆電話で、蒸し暑い夏の夜。明日に試合を控えた気持ちの高揚が勇気をくれた。伝えたかった想い。最後の告白。

 

答えはこうだった。

 

 

「アナタトハ、タノシイトモダチノママデイタイ。ソノヨウナカンケイヲ、イシキシタコトハナイ」

 

はっきりと断られた。過去に2度告白した時はこんなにはっきりとは言ってくれなかった。

 

僕はとにかく彼女が好きだった。ずっと、ずっと。

理由などない。理由などないから嫌いになるきっかけも無い。

 

部活が終わり帰宅し、自主練習で夜の道をランニングするとき、必ず彼女の家が見える国道を走り、彼女の部屋に明かりがついているのを確認すると、強く強く祈ったものだ。どうかこの想いが届きますようにと。

 

僕の長い片思いはこの電話で完全に砕け散った。

 

 

 

 

 

暑い夏の日。高校球児の白熱する映像を観るたび。ブラスバンドの演奏が聞こえてくるたび僕は、失恋を思い出す。僕にとっての大失恋を。

 

 

 

 

 

中学までの同級生である彼女とは、数年おきのクラス会で会う。

当時のことはどちらも口にせず、楽しかった昔話しで盛り上がる。

 

 

 

今となってはいい思い出。

 

ほろ苦い思い出。

 

 

 

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。