雨のち いずれ晴れ

ホントは寂しがりやのシングルファザーが叫ぶ! 誰かに届け!誰かに響け!!

どこまでも走ってゆけるような気がしてた

今週のお題「夏うた」

 

中学二年で始めたバンドも、休憩を挟み高校二年で復活した。

キーボードとボーカルが新しく加わり僕らは、本格的な活動を開始する。

 

今思えば、家族には本当に迷惑をかけた。また、寛大な家族だったとも思う。

メンバーの中で一番広い自室を持つ僕の部屋にドラムがあり、必然。そこが練習スタジオとなった。

農家を営む僕の家は、休日など関係なくて、常に農作業に追われる両親は幸い、日中は家にいない。

 

 

夏休みには朝から始まり、昼休憩を挟んで夕方まで練習が続いた。

100m後ろに山を背負ってその音は、凄まじい範囲にまで響いていた。

隣の家にも、そのまた隣の家にだって僕たちの音がずっと遠くまで。

 

20年以上昔の、さらにはど田舎だからこそ許されたことなのだろう。

 

 

 

 

真夏の空気は湿度で重く、ギラギラと輝く太陽の光で着色されて薄黄色のガスのよう。

僕の部屋の窓は開け放たれ、扇風機二台がクビを降り、セミの声を跳ねっ返すようにしてドラム・ベース・ギター・キーボード・ボーカルそのままの爆音が飛び出してゆく。

 

たまに近所のおじさんが「少しは聞ける音楽になったな」と声を掛けてくる。

揶揄されたのか褒められたのか、騒音被害を訴えてきているのか、そんなことすら感じる事ができないぐらい幼かった僕たちの頭の中には、夏祭りでの初舞台のことしか頭になかった。

 

 

 

何の都合なのか、家族が早めに農作業を終えて帰ってくると「うるさい」と追い出される。僕らが止めるととたんにセミの声が戻ってくる。

各々の楽器を背負い別のたまり場へと移動する。

遊びだった。もてたかった。目立ちたかった。音楽への純粋な気持ちなどない。

見上げた空のように、『上手くなりたい』という青い純粋な背景の表面に『異性からの称賛』というほのかな期待が入道雲のように幾重にも沸き立っていた。

 

 

 

あの頃の僕らには本当に何もなくて。ただただ楽しい事だけを繰り返す毎日。

バンドは面白かった。漠然として無根拠な栄光を感じていた。

テレビの中に入れるかもしれないという、異性からもてはやされるかもしれないという、オーディションにでも応募してみようかという、買ったばかりの宝くじに寄せる思いみたいに『可能性』に夢中になってた。限りなくゼロに近い可能性にさえ胸が躍ってた。

僕らは自由だった。各々が思う栄光に向かって思いを馳せた。想像と妄想だけで生きて行けた。

 

 

年頃の僕らは無尽蔵なエネルギーを持て余し、日中は楽器を叩き声を張り上げ、夜になるとそのまま星を眺め花火をし異性の話で盛り上がり爆笑し朝霧の中、帰宅し眠った。

 

 

気付くとメンバーが来ている。僕の家に、部屋に勝手に上がり込み準備が始まっている。ドラムを叩く僕をニヤニヤ見ている不思議に気づき顔に落書きされた自分に気づく。そんな爆笑が永遠に続くと思ってた。なんなら『永遠』ってことさえ思わずに、僕らはこのまま大人になるのだと思ってた。

 

 

 

街おこしのイベントで作られた舞台。そこからは外れた場所で僕らは、他のバンドと共に初ライブをした。郵便局の駐車場。ドラムセットとアンプが並んだその場所は、しっかりと照明に照らされて、見物人もそろってって、両サイドの出店がなんとも言えないアクセント。

 

どこにでも凄いやつらはいるもので、その演奏に音に驚愕しながら、でも心は、瞳は目の前にいる浴衣姿の大勢の異性に捉われている。

 

いよいよ僕らの出番。

初舞台の緊張と大勢の異性を目の前にした興奮はそのまま音となり、夜の空に吸い込まれていく。

時折通り過ぎてゆく涼しい風も僕らの汗を乾かすことはできない。

 

 

 

漠然とした無根拠の栄光に向かって走る。

武器も防具も持ち合わせていない裸足のままで飛び出して、栄光に向かうかもしれない時間という列車に乗っていこう。

いつか大人になるという、イメージだけの意味も理解していない自由に憧れて、今はまだ見えない自由が欲しくて。

やみくもに、希望という見えない銃を撃ちまくっている。

自分はまだ何がしたいのか分からない。不安や怠惰や己の能力を一旦無視して、内なる声が聴きたい。自分の心の本当の声を聴かせてほしい。

内なる声をそのままに、その勢いそのままに列車よ走って行けどこまでも。

 

 

 

初舞台の最後の曲は『TRAIN-TRAIN』で終わり、僕らの終わらない夏は『TRAIN-TRAIN』から始まった。

 

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少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。