彼女の言葉で、僕は頭をガツンと殴られた気がした
嫌な予感というか、悲しいというか、可哀そうというか、とにかくこの記事の続きを書こうと思う。
普段は行かない洒落たお店で、久しぶりに会った由紀子との会話は弾んだ。
お酒もけっこういける口で、会話に合わせてテンポよく飲み物のオーダーを入れる。
やはりと言っていいだろう。僕が持っている由紀子の情報はあまりにも乏しいものだった。今回本人から直接聞くことになったこれまでの出来事は、僕にとって、あまりにもショッキングな事ばかりだったのだ。
由紀子は今回でバツ2になるそうだ。。。
現在の仕事は、雑用も兼ねた事務職。
1人目の旦那も、2人目の旦那も,、お金のトラブルが尽きない人で、今回の離婚では遂に、由紀子にも返済の義務が生じてしまったようだ。
娘と2人暮らしの家計は切迫している。
1件目のお店を出るときの会計時、律義に財布を出すそぶりを見せてくれた。
もうそれだけで十分だ。
外は雨で、僕たち二人は傘を持参していた。コンビニ傘の僕とは違い、さすが女性とばかりに、安物だとは本人曰く、しっかりと色付きの傘を由紀子は持ってきていた。
しかし、帰り際の店の傘立てには由紀子の傘がなかった。
不運とは、こんなところにまで追っ手をよこすのかと、僕は悲しくなった。
店員からお店の傘を渡されたが、僕たちはそれを断り、コンビニ傘の中に二人で寄り添いながら次の店に向かった。
相合傘なんて久しぶりで。
肩をぶつけ合いながら歩く僕の隣の女性は綺麗で。
ここで下心が芽生えない男性がいたなら、即刻男を止めろと、はっきり言おう。女性にも失礼だ。
2件目に行くならBarと決めていた。
少し迷った僕は、店内の大きなガラス越しに、ネオンの街並みが見える店を選んだ。
この店にはめったに行かない。『勝負』する機会がめったに訪れないから。
写真が趣味で、インスタなんかにアップするのが楽しいのだと、由紀子は教えてくれた。頂き物のミラーレスカメラを持っていて、撮影のために登山などもしていたらしい。
どうりで運ばれてくるたびに、料理やカクテルの写真を撮るわけだ。
「カメラを貰うなんて凄いね」僕が由紀子に言う。
このあたりから徐々に話の内容がおかしくなってきた。
旦那の借金でトラブルが絶えない家庭。
子供の学費さえままならない家計。
今度こそはと、幸せを夢見て結婚した2度目の結婚生活も崩壊していく日々。
由紀子はやりきれない、満たされない気持ちを抱えながら日々を過ごしていた。
仕事に邁進し、気晴らしの趣味に没頭した。
由紀子の容姿だ。言いよる男性はかなりいたそうだ。
そしていつしか関係を持つようになった。相手が既婚、未婚を問わずに。
「私に隙があったのかな。。。」小さく笑いながら由紀子は言う。
由紀子の年齢上、どうしても既婚者の割合が多い。そして金と地位をもっている男が近寄ってくる。『愛人』や『割り切った関係』を求められるそうだ。
仕事のお客や、写真撮影の場所などで、声を掛けられたり、連絡先を書いた紙を渡されたり。男たちはとても上手に由紀子に近寄ってくる。そして由紀子はその誘いにのる。
寂しさを満たし、慢性的な資金不足を補うために一時の関係を持つ。
由紀子の話を要約すると、僕にはそう聞こえた。
世の既婚者男性とは、ほんとうに糞野郎が多い。
60代になってさえ、金をチラつかせながら由紀子に迫ってくるそうだ。
僕の下心はとっくに消えた。
悲しくなった。空しくなった。
言い寄ってくる男たちに皮肉を交えながら、由紀子は数パターンの話をしてくれた。
もう黙って聞いていられなくて、不倫という行為が如何に不毛な行為で、不健全で、ハイリスクで、未来の見えない行いである事。どんなに優しい言葉で愛を囁かれても、しょせん男は由紀子の体が目当てである事を、僕は淡々と説いた。
僕と同じ年齢の由紀子に対して、もう十分に大人な由紀子に対して僕は、説教じみた、しかも当たり前の正論を吐いた。分かり切った事を言ってしまった。
「あなたに何が分かるのよ。」
「このど田舎で、子連れのアラフォー女が借金抱えて生きていくってことの意味分かってる?」
「使える武器は使う。バカな男がそれに引っかかる」
「利用してるのは男の方ばかりじゃないのよ」
キツい眼差しを向けながら、由紀子は僕に言った。
大昔に当時の糞上司が酒交じりに僕に言った言葉を思いだし、胸がチクリと痛んだ。
「女はいざとなったらどうにでもなる」
結婚とは女性にとって憧れで、幸せを夢見てするもので。
子供を産んで、世間と肩を並べて、胸張って生きる為の手段で。
でも、由紀子に訪れた不運は何なんだろ。
他の女性は由紀子に、男を見る目が無いと言うのだろうか。
結婚って何なんだ? ある種の賭けか?
すっかり酔いの冷めた僕は、てっぺんを過ぎた腕時計を見て、店員に会計を頼んだ。
会計を待つわずかな時間が長く感じられて気まづかった。
そして最後に、一応、念のため、僕は由紀子に聞いた。
女性が引っかかりやすいナンパの方法を。
いや、マジで。
少しでも誰かの心に響けたら!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。