雨のち いずれ晴れ

ホントは寂しがりやのシングルファザーが叫ぶ! 誰かに届け!誰かに響け!!

人生に三回訪れるチャンスの一回目の話【モテキ1回目】

 

息子が2歳の時、風邪をこじらせて入院した。今から20年近く前の話。

 

その日の僕は、先輩と約束があり飲みに出かけることになっていた。

病院に付き添う妻と、風邪で苦しむ息子に、申し訳なさを感じながら、しかしどうしても先輩との飲み会を断ることはできない。

 「僕がいたからって、風邪が治るものでもないし・・・」こんな言い訳を自分にして、先輩との『サシ飲み』が決行された。

 

 

4歳年上の先輩。ロン毛で見た目はサーファー。しかしサーフボードを持った姿は見たことが無い。巷で流行りの『丘サーファー』ってやつなのだろう。

だが見た目のチャラさとは違い、先輩は仕事の話を僕にしたくて誘ってくれたのだ。

 

優しいダメ出しと、分かりやすい説明と、手が届く範囲の目標設定と、仕事上の優先順位の説明を、運ばれてくる美味しい料理に挟みながらお酒を飲んだ。時間はあっという間過ぎていった。

 

 

 

2件目は、先輩の友達がやっているBar。

ちょっと危ない雰囲気がする店。マスターが先輩の友達。

正直言って先輩は恐い。そしてマスターも。

この店、なんだかアンダーグラウンドな雰囲気がプンプンする。

 

お店には先客がいて、カウンターに女性が二人座っていた。

僕たちが席に着いたとたんに、先輩がその女性たちと話し始めた。

どうやら知り合いらしい。先輩よりは少し年下かな。僕と同じ年齢だろうか。

 

1軒目とは違い、今度は仕事の話は一切無し。

丘サーファーの実力発揮って感じで、女性たちとの会話の波に上手に乗っている。僕はその後ろを付いていく。

女性を含めた僕たち四人の楽しい時が過ぎていった。

 

どのぐらい時間が経ったのだろう。突然先輩と一人の女性が会計を済ませて店を出ていった。「じゃあ、行くから」

 

ん?どういうこと?先輩帰るの?

僕は慌てて立上り、先輩に挨拶をした。

「今日はありがとうございました。ご馳走さまでした。」

早口で言ったつもりだったが、先輩の背中は店の外に消えた。

 

初対面の女性と僕は、二人きりで店に取り残された。

「どこ行ったんだろうね?」との僕の問いに彼女は「さあ」と答えた。

 

とても僕は困った。こんなところに二人で取り残されても話すことが無い。帰るにも帰れない。帰るタイミングすら分からない。友達から置いて行かれた彼女も可哀そうだし。

友達は何考えてんだ?イミフすぎる。

 

そのうち場が持たなくなってきた。とても気まずくなってきた。

思い返すと先輩は「帰る」とは言っていなかった。

「電話してみる」と言って僕は、先輩の携帯を呼んだ。しかし、まったく出てくれない。

 

しつこく何度も呼び出しをかけたら、やっと出てくれた。

「お前たちも来いよ」

まったく意味が分からない。じゃあ初めっから一緒に連れて行ってくれればいいのに。

しかし、とりあえずこれで気まずい空気から解放される。

自分の携帯で何やらメールを打っていた彼女に「行こうか」と声をかけ一緒にBarを出た。

 

「なんだか6丁目の方にいるらしいから、行ってみようか」

僕の問いかけに快く応じてくれた彼女。

 ところで6丁目ってどこなんだろ?と立ち止まった僕に「あっち」と彼女は指さしで教えてくれた。

 

 

お店を出て彼女と並んで歩いた。週末の川反は人が沢山歩いていて、ぶつかりそうになる。並列してこっちに向かってくる酔っ払いたち。それを避けるようにして歩く僕たち。

必然的に彼女を守るために僕が近くに寄り添う形になる。

 

いきなり手を繋がれた。隣の彼女を見るとニコリと笑った。

僕の肩ぐらいの背丈しかなく、小さくて可愛い人だ。ブスの僕とは不釣り合い。

多分酔ってるのだろうと思い、しかたないからそのまま手を繋いで歩いた。

 

両脇に連なるビルのネオン。すれ違う人の群れ。通り過ぎるタクシーの排ガスの匂い。

田舎者の僕がこんな所にいるなんて、ちょっと信じられない。

親元を離れ、自立できた自分を実感して、若干22歳の若造ながら、大人になったような気がして、なんだか感慨深い気持になっていた。

 

 

しばらくすると見覚えのある風景。いつも通ってくる5丁目の橋が見えた。

その橋を左手に見て通り過ぎると6丁目らしい。

 

 

 

 

!!!!!!!!

 

 

 

思わず僕は立ち止まり、彼女の顔を見た。

落ち着いた様子の彼女は「私はいいよ」と言った。

 

 

 

 

 

やっと意味が分かった。理解した。 了解! ラジャ!

6丁目とは、風俗とホテルが並んでいる通りだ。

先輩と先に出ていった女性はホテルに行ったのだ。

 

『絶好のチャンス』とはこのことだ。『棚からぼた餅』とはこのことだ。

どちらの模範解答としても、教科書に載せることができるレベル。

家に妻はいない。僕の帰宅時間を知るすべもない。傍らの女性は可愛い。しかも、くどく手間もなく了承済み。

 

普通なら、普通の男性ならここで、迷わずゴチになるシーンだ。鼻の下が伸びすぎて、地面に唇が落っこちる場面だ。

しかしこの時の僕は、入院している息子を思い出していた。付き添っている妻を思い出していた。まったく不純な気持ちが湧いてこなかった。

 

僕はそのまま彼女を駅まで送った。

 

 

 

20年経った今、あの時の事を考えると、僕と手を繋いでくれた女性に、とても失礼な事をしてしまったと思う。その人は僕が既婚者であることを知らなかったし。

そもそもこの時の僕はまだ22歳で、一般的には結婚している年齢ではない。質問しなかった彼女は悪くない。ただし僕は指輪をしていたが。

 

どうですか皆さん。僕が如何に真面目でピュアな男であるのか、ご理解頂けたと思います。いるんですよちゃんと、世の中には。

こんな場面が訪れても浮気をしない男が。

 

その後、風邪を引いた息子を見ると、たまに思うんですよね、この時の事を思い出して。

 

いや~ もったいねぇ~~~!って。

 

男性諸君は、激しく同意でしょ?

 

 

 

 

※安心してください。

先輩と一夜を過ごした女性は、この数年後にしっかり先輩と結婚しました。

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。