数年ぶりに恋をした
三日月の輪郭の淵を超えて、月の本体がぼんやり見える夜に、これは恋なのだと気づいた
受注した現場ごとに仕事場所が変わる仕事をしている
僕は建築の現場監督
冬の足音が聞こえる11月
仕事場である大学構内の木々が色づきを終え、落ち葉となって風に舞っている
技術畑の僕は、殺伐とした、無機質な、ロジカルな思考のみを優先とさせる、そんな甘みの無い日々を過ごしていた
アラフォーの僕にとって、大学構内を行きかう学生の姿は、未来への輝きと、若さというエネルギーに満ちた、別人種の人間に見えた
さらに言うならば、高卒の人間にとって、大学という未知の世界で働く他の大人たちが、同じ社会人のはずなのに、異文化の、異国の人種に感じられ、忘れていた劣等感を染み出させる
校内は様々な人で溢れ、また面白いもので、規則的に人々が行きかう
学びの場という区切られた時間間隔が、そこに集う人たちのリズムを刻んでいた
そんな中に、僕の目を引く存在が現れた
いつも決まった時間に、決まったルートで通過していく綺麗な人
どうやら宅配のヤクルトレディーらしい
初めのうちは目で追うだけだったのが、いつしか自分の仕事場所の近くに停まることを知る
遠目から見る彼女の年齢は、僕と同じぐらいだろうか
校内を行きかう大人たちは皆、整った姿をして、僕のようなただの工事関係者の作業着姿のアラフォーなど、浮きすぎている存在
この年齢になると、他人への興味など薄くなって、それが異性ともなれば、自己への自信の無さから、さらに近寄りがたい存在となる
それでもなお、興味という好奇心と異性に接触したいという動物的衝動を抑えることができなかった
いつのまにか、小銭を握りしめ勝手にドキドキとしている自分がいる
人生は一度キリと心に言い聞かせ、わずかな勇気を絞り出して、初めて買ったジョア
彼女の声も顔もジョアの味さえも覚えていない
仕事のタイミングが合えばジョアを買いに行き、タイミングを無理やり合わせてはジョアを買いに行った
初めのうちはそっけなかった彼女も、いつしか少しだけ会話らしい話ができるようになり、そのことが僕の心を浮き立たせた
いつのことだっただろうか
タイミングがズレてしまい、彼女の車とすれ違ってしまった
僕を見つけた彼女はなんと、手を振ってくれたのだ
そんなに言葉を交わしたこともなく、数日おきにブルーベリーのジョアを一本買うだけの薄い薄い繋がりしかない僕に手を振ってくれたのだ
自分の事はよくわきまえているし、迷惑行為などするつもりもなく、ただチャンスだけがほしかった
ゆっくり話がしてみたい・・・・・
どんな行動ならば最小限の迷惑で済むのかと、試行錯誤した結果、原始的な手段をとることにした
短い手紙を渡すことにした
そう決めてから、1が月以上経過したある日
今の仕事場所もそろそろ終わりを迎えることになった
会えるチャンスはもう限られている
上手にタイミングが合ったその時は
いつものジョアを買えるそのときは、もう心臓がヤバくて
顔も熱くて、じんわりと汗ばんだ手をふきながらお金を渡して
彼女の気遣いから始まる世間話も耳に入らなくて、ただ手渡した
折り方をネットで調べて、学生には主流らしい折り方を3回目で成功させた小さな手紙
以下原文
突然手紙など渡してしまいすいません
貴方の事がずっと気になっています
名前も知らない貴方に、どのように伝えたらいいのか迷ったあげく、このような原始的な方法をとることにしました
もしよかったら今度、食事でもごちそうさせて頂けませんか?
貴方の環境も考えず、このような手紙を渡してしまったことは申し訳なく思っています
気分を害されたのであれば、無視していただいてかまいません
どうかお気になさらず
携帯番号 0**-****-****
手紙を押し付けるように渡したその時に僕は見てしまった
彼女の左手の薬指に、シルバーに光るリングがることを・・・・・
当然のごとく、彼女から連絡はありません
それでも僕は後悔していませんし、連絡が無くて逆に良かった
さすが僕が好きになった女性です
それでこそ僕の心が引き寄せられた女性です
アラフォーのシングルファザーの僕
これからの人生をどのような心持で歩んでいけばいいのか模索しています
パートナー探しに躍起になっている訳でもありません
それでも、心惹かれる異性と出会えたなら、何かしらの行動を起こせる男でありたいと思っています
そんな異性など、めったに出会えるものではない事をしっているから
人生は一度きり
僕は僕の人生を歩みます
決して後悔の無いように
笑って死ねるように
少しでも誰かの心に響けたら!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。