週に一度、曜日はランダムに、通い詰める飲み屋がある。
そこで繰り広げられる、人間模様が好きだ。
地元に根付いたそのお店。周辺の住民だけでなく、市内全域にファンを持っている。
このお店では、先輩方からの、ありがたい人生訓を頂くこともしばしばで、酔っ払いおじさんの会話はいつも弾みっぱなしだ。
店に入るといつも常連客で賑わっているのだが、その日は知り合いのテレビおじさん(テレビ局に勤めている)と夫婦一組だけが、カウンターに座っていた。
当たり日である。僕は騒がしいのが苦手(店には悪いが)
テレビおじさんとあいさつを交わし、生ビールを注文する。すると、サービスの漬物がカウンター越しに差し出される。
「ありがとうございます。今日も暑いですね」
なんて、通例の挨拶を僕は投げかけるのだ。
このお店は、お母さんと息子さんの二人で切り盛りする割に、客の入りが良くて、いつもは注文をさばこうと、てんてこ舞いの状態。
たまには今日みたいに『落ち着いた日』があっても罰は当たらないだろう。
運ばれてきたビールで、隣に座るテレビおじさんと乾杯をする。
「おつかれさん。歩いてきたの?」「いや、今日は自転車です」
これもまた、お決まりの挨拶だ。
現在の僕には妻もいない。実家に帰ることもなかなかできない。
このお店で提供してくれる料理が、家庭的でなんとも言えない温かさを僕に与えてくれる。それでも、家庭で食べる料理よりは完全にプロの味なのだが、飾らず気取らないカウンターの中の二人(お母さんと息子さん)との会話も相まって、お代以上に満足して帰ることができる。
夏の甲子園も活気づき、熱戦が繰り広げられ、高校球児の熱い戦いは、僕らおじさんの、格好の酒のつまみとなる。そして昨年の金足農業の活躍は、きっと永遠にこの時期の酒のつまみに欠かせない秋田の『旬』となることだろう。
僕とテレビおじさんは、たわいもない会話をしながら、内容があっちこっちに飛んでいた。ほろ酔い加減から少しだけ、ほんの少しだけ脱線し始める。
そんな時、離れた席に座っていた夫婦の会話がヒートアップしているのが聞こえた。
おいおい、止めてくれよ。公衆の面前だぜ。。。
※犬も食わないので、夫婦の会話の内容を要約します。
奥様専用のマイカーがあるが、奥様はなかなか車に乗らない。使わない。
奥様が久しぶりに車に乗ろうとしたら、バッテリーが上がっていた。
なんと車にはカギが付いていた。カギを付けっぱなしにしたのは旦那さん。
しかし旦那さんはACC(エンジンを掛けてなくても電源が供給されている状態)にはしていないはずだと言っている。
しかし奥様は、カギを付けっぱなしにしたからバッテリーが上がったのだと言っている。
まぁ、こんな感じ・・・
こういう夫婦喧嘩の場合、どうしても女性の方がヒートアップしがちで、声もまた大きくなる。お酒の力もあるだろうが。
男性は臆病だったり世間の目が気になったりで、奥様との会話より周囲に気を配りがち。しかし女性はしっかりと男性に向き合い、話をする。そして、二人の会話はどんどん横道に逸れていく。互いに言い合いになる。
『使えない物』を集める旦那に対して『使えそうなもの』を集める妻。
僕とおじさんの感想:片付かない、捨てられないパターンの典型的。
『社会に認められたい』旦那に対して『世間に認められたい』妻。
僕とおじさんの感想:社会との関りや繋がり方が違う。
『ギラギラしていたい』旦那に対して『キラキラしていたい』妻。
僕とおじさんの感想:お金の使い方は男と女で違う。
目の前で繰り広げられる夫婦喧嘩。
聞いてる僕らは男だ。どうしても女性に弱い。
女性のヒステリーな声や、涙に。
聞いているとハラハラドキドキしてしまう。
まぁ、この時の奥様はさすがに泣いてはいなかったが。
場を弁えることなく続く喧嘩。ヒートアップする奥様。
テレビおじさんが言った。
「鬼嫁って言葉あるだろ」
「俺の嫁も鬼でした」
「鬼嫁の本当の意味はな」
「なんすか?」
「家庭や旦那の為に、鬼にでもなれる嫁のことを言うんだよ」
その言葉を聞いた時、僕は首が取れそうになるぐらい何度も頷いた。
また一つ僕は、大人の階段を昇った。
さて、この奥様はどうなんだろ・・・
聞いている、いや、聞こえている僕たちの判定は、どちらもイーブンだ。
「彼の言い分、彼女の言い分、どっちもイーブン」とテレビおじさんは言った・・・
世界の気温が一瞬下がったような気がした。
世界の平均気温は、毎年上昇し、その傾向が止まらないらしいが、テレビおじさんなら、なんとかしてくれそうな、そんな予感を抱いた夜だった。
少しでも誰かの心に響けたら!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。