雨のち いずれ晴れ

ホントは寂しがりやのシングルファザーが叫ぶ! 誰かに届け!誰かに響け!!

相談じゃないんだけどさ・・・と切り出されて

毎年恒例の新年会は1月1日の夕方から始まった。

2人きりでやる予定だったが、結局4人になった。

僕(44歳)と元春さん(54歳)と里美さん(51歳)と光弘さん(45歳)。

おじさんとおばさんの集まりだ。そして全員独身である。

 

そりゃそうだろう。新年早々に外出できる生活環境といったら『独身貴族』以外にない。

 

新年会を恒例としているのは、僕と元春さんだけ。毎年元春さんの自宅でひっそりと開催していた。もうかれこれ10年以上続いている。そんな僕らの会に興味を持った2人が、都合の合う年だけ参加してくれるようになった。暇なんだろうねきっと。

 

生涯未婚率という記事をネットで見た。

男性25.7%、女性16.4%だそうだ。一生のうちに1度も結婚しないまま、独身を貫いたまま生涯を終える人の割合。なんと男性は4分の1を超えている。そして元春さんと光弘さんは現時点でそこに向かい爆走中である。

 

僕と里美さんは、互いにシングルとして子育てを終え、持て余した自分の時間をいかにして有意義に過ごすかというアイデアを模索している最中だ。

 

そんな4人が集まった新年会は、互いに持ち寄った食べ物と飲み物を並べたテーブルを囲んで始まった。4人というのはちょうどいい。テーブルは長方形であり、1辺に1人の割り当てができ、さらには互いの顔をしっかりと見ることができる。

会話をするうえで、表情というものはとても重要だ。

「ふざけんなよ、馬鹿!」

という言葉も、表情一つでとらえ方が変わってしまう。笑顔なのか鋭い目つきなのか。

表情が見えるということは、冗談に花を咲かせやすい。酒が入り笑顔が絶えない空間は笑いも絶えない。

 

今回のメインはしゃぶしゃぶだ。金華豚を細切りにしたネギと一緒にポン酢で食べると、うなるほどの美味しさ。なんといってもやはり金華豚だろう。甘くてさらっとした油がポン酢のさわやかさと重なって口の中一杯に広がり、わずかな咀嚼ですっと喉の奥に消えていく。旨すぎる!

最高だ。一年の始まりとしては上々のスタートだ。

 

食事が進みお酒も進み会話も弾む。

あっちにいったりこっちにいったりしながら笑いがおさまらなかった会話も、お腹の満たしとともに緩やかになる箸の動きに合わせたかのように落ち着いていった。みんなの顔が紅い。

 

ひと段落と誰かが正月番組の流れるテレビに目をやる。自然と他の人もそちらへ目線が流れる。まったりとした時間が周囲を満たしていった。テレビからはお笑い芸人の底抜けに明るい声が流れている。

「相談じゃないんだけどさ・・・」

光弘さんが話し始めた。

以下要約。

 

彼女ができた。その人はバツイチ。2人の子供は自立している。養育費をもらうことなく生活してきたシングルマザーとしての子育て。お金に苦労した人だ。付き合って数ヶ月が経過している。少しずつ大事な話ができるようになってきた。もうお互いにいい歳だ。どちらとも口には出さないが落ち着きたいと思っている。じゃあ結婚かな。自分がそう意識するようになった時に知ったことがある。彼女は年金未払いの状態だった。このまま老後を迎えても需給資格がない。それとなく聞いてみると、生活保護をあてにしているようだ。子供の世話になるつもりはないらしい。自分は安月給。年金だって少ないだろう。老後は自分のことで精いっぱいになる可能性があるなかで、彼女との結婚などできるのだろうか。なんてことを今は考えているんだ。

 

沈黙に包まれた。誰が先に言葉を発するのか探りあった。

テレビの音だけが流れ、その音が肩に重く積もっていった。

 

僕たちに迫ってくる老後問題。忍び足ではあるが確実に近づいてきている気配がする。

独身の僕たちはお金を貯めて自分で施設に入らなければならない。まだそのような施設のシステムを詳しく調べてはいない。具体的に知ってしまった場合の切実な不安を抱えて生きるより、【なんかヤバそうだよねw】という漠然とした不安のほうがまだ、今はまだそっちのほうが生きやすいから。

 

とりあえず、光弘さんに彼女ができてよかった。今はそれでいいと思う。

 

 

話し始めた本人の光弘さんが、この場に重く積もった不安を一掃するように新しい酒を持ってきて乾杯の音頭をとった。

 

 

 

 

チェリーボーイ脱出にかんぱ~い!!

 

 

 

マジか・・・・・

 

 

 

 

少しでも誰かの心に響けたら!!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。